村上春樹の翻訳で、いかにも短編らしい短編で、
期待した通りのものがここにある。
期待したものは、人生の細部である。
抽象的な文章ではない。
人生に対しての警句でもない。
安部公房ふうの発明でもない。
その人にまつわりついて離れない現実の情報が、
改めて、文章に固定化されて提示される。
人生は生活の細部に根を張り、養分を吸っている。
そのありさまが懐かしい。
多分、死んで行く時に、心底懐かしいのは、そんな細部なのだ。
日常の反復。
あるいは、ふとした偶然。
それだけのことで、人生は成り立っている。
特に、アメリカの短編はそんな感じがする。