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何もなかった二人

中学の同級生
男と女
部活が同じで
帰る方向が同じで
よく一緒に帰った

わたしは晩生でそれらしい話はしなかった
恋愛ごとなんて人間を甘くするものだと軽蔑もしていた

周りの大人たちは表向きそういう態度であった
わたしは素直に従っていた

大人の言いたいことなど
ふた周りも先取りして
承知して見せている
そんな優等生だった

その人にどうしようもないほどの欲求を感じたこともない
それは時と場合により制御できる範囲のものだった
しかし制服の下は充分に充実していて
笑顔もまた怒った顔さえも愛らしい女だった
感情の動きが母親とも妹とも違う
なにかそれは男と女の感情に似ていた
組み替える脚を見せられ私は何かを感じていた
私には歳の近い妹がいたのでその延長で
考えようとしたが
やはりその範囲では処理できない
過剰な女性部分があった

そのようにして静かでつまらない時間が過ぎた
逸脱は高校生以後のことである

いま中学の彼女との時間は
満開の桜の下で
花びらが降りかかり
これから二人で写真撮影をする
そんな
陰のない明るさなのである

美しい思い出になった

桃の花下照る道に出で立つ乙女は
多分あの人だ

家が近所だったので、
何かの機会に母と彼女が帰り道で同行し
話すこともあったらしい
何度か感想を聞いた
いい娘さんだねと

いい娘には違いない
しかしわたしにはなすべきことがある
チャレンジがある
社会のため人類のため
そんな思いの中学生だった

考えてみれば今も変わっていない
いつでもわたしにはしなければならないことがある
プライベートな生活の前に
しなくてはならないことがある

そのようにして一生は過ぎたのだ

桜の花びらが舞い散るその下に
わたしの幸せはあったのだろうかといまも思う



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