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双極性うつ病の新しい国際同意声明

双極性うつ病の新しい国際同意声明で、小児と成人のこの病態に関する疫学から治療上の問題や研究デザインに至る最新知見がまとめられた。

【9月5日】双極性うつ病の新しい国際同意声明で、小児と成人のこの病態に関する疫学から治療上の問題や研究デザインに至る最新知見がまとめられた。

スペイン、バルセロナで開かれた第21回ヨーロッパ神経精神薬理学会(ECNP)で発表されたこの声明は、2007年3月の約60名の双極性うつ病専門家による討論に基づいている。その討論の記録は『European Neuropsychopharmacology』7月号に掲載されており、ENCPのウェブサイトで読むことができる。

「双極性うつ病の病像は重要性がますます強まりつつあるとされている」と筆頭著者であるウォーンフォード病院精神医学部(英国、オックスフォード)のGuy M. Goodwin, BM, BChがMedscape Psychiatryに語った。「双極性うつ病が若年層にどの程度、そしてどうして発生しているのかについての認識が高まり、治療研究が促進されることを我々は望んでいる。」

オーストラリア、フランス、ドイツ、オランダ、スペイン、英国、米国の研究者が名を連ねる著者グループが、前回の声明文書を作成したのは、2001年のことである。

診断と疫学

ヨーロッパの調査と最近の米国の調査によれば、一生のいずれかの時点で双極性うつ病になる者は全体のおよそ2%おり、双極スペクトラム障害になる者は最大で6%いると推定されている。

集積されたエビデンスによれば、双極性の気分障害の初回発症は、十代半ばから20代ないし30代までに起こり、大うつ病エピソードか軽躁病として発現するのが一般的である。大うつ病の発症は時期が遅い傾向があり、年齢を重ねても持続するリスクがある。これは上記の2つの病態の原因の差を反映している可能性がある。

「双極性障害の早期の発症は、社会性や精神の発達が障害されるという点で患者の病苦を重くし、その多くがうつ病発現の一因となることが考えられる」と研究グループは強調している。患者の生活機能の低下は、急性期だけでなく、エピソード間期においても進んでいく。

うつ病を伴わない双極性障害はきわめて稀であり、双極性障害の長期経過は躁症状よりも抑うつのほうが主体である。

単極性および双極性うつ病の判別については、信頼性のある基準が今のところ存在しないため、単極性うつ病として診断されている患者には、長期の経過の中で双極性うつ病に転換するリスクがある程度(おそらくは10%を超える)あると考えられていることを、著者らは強調している。

小児の双極性うつ病

双極性障害は小児および十代思春期にも存在することは広く認められているが、それを最初に診断できる年齢については意見が分かれている。双極性障害様の症状が見られることはかなり多いが、確実に診断された双極性1型障害は、思春期前の小児には稀である。双極性1型障害の特徴は、うつ症状の有無にかかわらず少なくとも1回以上の躁エピソードの履歴があることであり、双極性2型障害は、うつ症状と軽症の躁病である軽躁病の両方の症状が含まれる。

早期発症型の双極性障害は、患者が十代後半になると見つかることが多くなる。早期介入によって患者の予後が改善することがあるので、小児および思春期十代への治療の試みが重要であると同意声明には記されている。至適治療を決めるには、成人患者の臨床試験の知見を当てはめるのではなく若年患者に対して臨床試験を行う必要があるが、そうした研究に患者の協力を得たり患者を募集することは、いまだ難しい問題である。

「ECNPは、(双極性障害を持つ)小児の治療と研究の発展を模索しているヨーロッパの臨床医の協力ネットワークを支援している」と著者らは記している。

成人の双極性うつ病と単極性うつ病の比較

現行の精神疾患の診断と統計マニュアル第4版(DSM-IV)における双極性うつ病(または単極性うつ病)の大うつ病エピソードの基準は、この疾患の経過全体が考慮されていない。DSMの次版では、双極性うつ病と単極性うつ病の鑑別に国際双極性障害学会の勧告に従って確率的定義が採用される公算が強い。将来の研究には、この種の定義を採用することが必要になると著者らは記している。

双極性障害の患者では不安が現われることが一般的であるので、ランダム化対照試験には不安を同時に有している患者も採用すべきである。転換間隔が短い患者(1年間に4回以上のエピソードがある患者と定義される)も試験の結果を損なうことなく、試験に採用することが可能である。

治療試験

双極性うつ病への有効性を確定するための臨床試験のデザインは、活性薬とプラセボを比較する単剤療法試験がやはりゴールドスタンダードである。著者らの記述によれば、新薬がプラセボよりも有効であることが証明されたならば、次に補助薬剤を使ったプラセボ対照試験でその新薬を検証することになる。中でも、長期投薬の必要性が確立されていない若年成人がプラセボ対照試験の対象としてふさわしい。

双極性うつ病試験への採用では17項目ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)スコアが20点を超えることを条件とすべきであり、有効性がもっともよく検出されるのはHAM-Dが試験開始時で24点を超える患者群であると、著者らは勧告している。

試験の転帰は、従来のような症状重症度の尺度に基づく他に、生活の質尺度や注意力、記憶、遂行能力に関する神経心理学的検査などの生活機能尺度を二次的な評価項目として含めることが勧められる。

躁転の予防

「双極性うつ病から躁病ないし軽躁病への転換は重要なリスクであり、単極性うつ病とは異なる治療戦略が必要である」と著者らは警告している。

三環系抗うつ薬やvenlafaxineなどのように、躁転を誘発する傾向がその他の薬剤に比べて強いものが一部にあるが、その作用は10週間の治療ではまだ発現しないとされている。したがって、躁転のリスクを明らかにし、持続効果を確認するためには、12週間の薬剤プラセボ比較試験が必要であると著者らは記している。

薬剤に反応しない患者が不必要な長さで試験に残される事態を確実に防ぐために、6週間後か8週間後に被験者を詳しく評価する必要がある。

再発の予防

「双極性障害においては再発の長期予防が大きな課題である。治療が成功するには、医師患者間の治療協力関係が十分に成立していること、患者とその家族による効果的な自己管理、有効かつ忍容性に優れた治療法が必要である。」

持続効果や継続的な反応の検出を目的とする試験は、再発予防デザインに従っていなければならない。すなわち、双極性障害の症状を現わしている患者を試験薬でまず治療し、それからランダム化して試験薬治療を継続するか、プラセボを投与する。しかし、治療反応があった後に活性薬から急激に離脱すると、試験薬の有効性が人為的に強調される可能性があると著者らは記している。

通常は、短期間の減量期間を設けることが望ましい。その他にも、3カ月程度にわたって気分を安定化させることが望ましいが、こうした長期間ではプロトコル順守を確保することが難しいので、試験に費用がかかり、実施に伴う困難が大きい。


 



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