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うつとセロトニンとストレスと対応力と

最近、内科の先生から「うつ病」について質問を受けたので、解説しつつ説明したい。

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Q1;うつ病の場合、①脳のセロトニン(違う、物質かもしれませんが)分泌力;遺伝的関与が大きい

  と、②ストレス対応力(認知など、ストレスの受け止め方。);後天的要因が大きい。

  のミスマッチ(相対的関係)によって、発病する。 と考えてよいのでしょうか?

  (糖尿病の、インスリン分泌能力と、生活習慣の関係に似ている。)

Q2;したがって、どんなに、セロトニン分泌能力が高くても、持続的に過重労働を行っていれば、うつ病になる。?環境要因によっても、うつ病になりうる。?

Q3;①の要因(セロトニン分泌能力がとても低い)場合、いわゆる、「うつ病」になる場合が多く

   薬がメインの治療となり、認知療法は補助的な治療となる。?

 

Q4;②の要因(思考の癖、認知の問題)が主な原因の場合、「適応障害」等になる場合が多い。?

   この場合でも、「うつ病」になることはありますでしょうか?

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まず、前提として、お書きになっているように、うつ病とセロトニン系の不調はイコールではないことを意識しましょう。
うつ病は様々な不調を含む総称であって、セロトニン、ノルアドレナリン、アドレナリン、ドパミン、甲状腺システム、副腎システム、性ホルモンシステムなど、様々な部分が原因になると考えていいと思います。
ですから、セロトニン分泌不全というよりは、ストレスと大きく考えて置いた方が宜しいかと思います。

Q1.にあるように
ストレスと、ストレスに対する対応力を考えて、そのミスマッチと考えるのは伝統的な考え方です。
統合失調症の場合に、「ストレス脆弱性仮説」としてまとめられ、特にドパミン系との関係で説明されています。これはかなり成功した仮説だと思います。
それならばということで、うつ病や躁うつ病にかんして同様なトライが行われるのは当然だと思いますが、現在の所、統合失調症とドパミン系の話ほどには成功しているとは言えない状況です。
しかし、有力で広く支持されている考え方で、とりあえずそのように理解して間違いではないと思います。反証はあるとしても、そのような「別のうつ病」があるという理解で宜しいかと思います。

Q2.そう思います。そのタイプのうつ状態を、昔はうつ病といわなかったのです。最近は含めるようになっています。それがDSM方式です。

Q3.ストレスの程度と、ストレスに対する対応力を問題にするとすれば、解決は二通りで、
ストレスを軽減することと、ストレスに対する対応力を増強することです。
ストレスを軽減することは環境調整です。
ストレスに対する対応力を増強するのは薬剤と精神療法です。
この場合、薬剤と精神療法の間には、原因に応じた使い分けがあるわけではないと思います。
薬剤はセロトニン仮説がまず言われるわけですが、伝統的にドパミン系の薬も効いてきましたし、ベンゾジアゼピン系で治療することも十分に可能な場合もあります。最近は神経栄養物質などといわれる場合もあり、てんかん系の薬のように神経細胞を保護することが主な役割ではないかとの議論もあります。ですから薬剤についてももう少し広い効能を考えて宜しいかと思います。
また精神療法に関しても、最近は認知療法、認知行動療法、対人関係療法、昔の精神分析を簡易にしたもの、あるいはもっと広く教育的な接し方、あるいは、生活指導に至るまで、いろいろとあるわけですが、どのタイプにはどの治療と明確な理論的背景があるわけではありません。
ただ、それぞれの精神療法の背景はあって、例えば、認知行動療法は強迫性障害の治療に深く関係していますし、精神分析的立場は神経症に関係しています。森田療法などは生活指導の部分が大きくあり、森田神経症といわれているの領域に関して発達してきたものと思います。
そのようなわけで、質問にあるような考え方とは少し違う立場をわたしは取っております。

Q4.適応障害と思考の癖、認知の問題の関係についても、関係はありますが、一対一対応ではありません。
適応障害とうつ病についてですが、原因について言及したものが適応障害であり、現在の症状についてのみ言及したものがうつ病であるという関係ですから、排他的ではありません。しかし一般のジャーナリズムの用語としては、うつ病は精神病に近く、適応障害は昔でいう神経症に近いイメージなのだと思います。様々な事情や誤解や意図があってそのようになっていることは分かるのですが、次に出るDSM-Ⅴではまた違う様相になるかも知れません。そのくらい不確定な話と思ってください。
糖尿病などの疾病モデルが当てはまるならいいのですが、現状ではどうもそうでもなさそうです。
しかし胃潰瘍とピロリ菌の関係のように突然やってくるブレイク・スルーもあるわけですから、まだしばらくこの曖昧さに耐える必要があるのだろうと思います。

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たとえば http://shinbashi-ssn.blog.so-net.ne.jp/index/51 の記事を引用すると次のようです。

診察で、お話を伺い、
うつ病だと思いますねえと話すと、
そうですよね、私もそう思うんですが、
でも、正直言ってためらっているのは、
会社で部下に何人かうつ病の人がいて話も聞いているんですが、
そういううつ病の人たちと私は違うと思うんです、
しかも、これはどうかと思うことなんですが、
会社としては、うつ病の人たちを決して肯定的には見ていないんです、
私だってそうでしたから、
それなのに私がそうなってしまうなんて、やっぱり自分が許せないんです。

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そういえば確かにそうで、「うつ病」という呼び名は長く精神病の一種だった。
精神病というからには、
「そんなに落ち込む環境じゃないのに、なぜかひどく落ち込んでいる」病気
という印象があるのではないかと思う。

たとえば妻が死亡すればかなり落ち込むが、
しかしそれにしてもひどすぎる落ち込みだという場合もある。

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最近雑誌で特集されているような「うつ病」はそのようなものではないので、
もう思い切って名前を変えた方がいいのではないかと思う。

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笠原先生は「うつ病」ではなく「軽症うつ病」と
提唱した。
まさに内容は納得できるものである。専門家には、指針となった。
しかし「軽症うつ病」のインパクトは一般には強くなかったように思う。結局「うつ病」とついているので。
ディスチミア親和型うつ病という言い方もあるが、
余計話が難しくなるように思う。
こちらも結局「うつ病」とついているから。

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分かりやすいのか、分かりにくいのか、分からないが、
骨折の例をあげて説明すると、
多分、3つくらいに分ければいいのだと思う。4としてその他。
1.骨が弱いので骨折。
2.骨は強いが交通事故で骨折。
3.骨は強いがラグビー部で3年で骨折。
4.その他。骨折したと思い込んでいるなど。

ポイントは、「環境調整をどうするか」である。

1.もともと性格的な脆弱性があって、普通とあまり変わらない程度の環境なのに、耐えられず、不適応になっている。虚弱体質。
→この場合は、環境を変えても、同じ不適応状態になる可能性が高い。だから、まず、ものの考え方、感じ方から、訂正してもらう。

2.一回の強いストレスにより、体調の乱れているもの。急性ストレス反応。
→この場合は、基本的な環境は変える必要がない。しばらく休んでカムバックすれば良い。
失恋、近親者の死、戦争体験など。

3.慢性持続的なストレスにより、体調の疲れているもの。慢性ストレス反応。
→この場合は、環境調整が有効。

4.その他。自分は落ち込んでいると思い込んでいるものなど。
→環境調整無効。

いま厳密な定義を抜きにして、暫定的に
虚弱体質、
急性ストレス反応、
慢性ストレス反応と
3つに分類してみたが、
これだけでうつ病という言葉を回避できる。
これらは互いに重なり合うこともある。

たとえば、もともと骨の弱い人が、ラグビー部でしごかれて、
骨にひびが入りかけているところに、交通事故にあって、
決定的に折れた場合など。

もともと気分の波の激しい人が苛酷な環境で10年くらい働き続け、
妻が病気になり、子供は家出して、母親が死に、
最後の駄目押しで部内の会議で業績低迷の責任を取らされたとか。

ストレス反応は、身体のどこに出るか、精神のどの部分に出るかは、決まっていない。
肩こり、頭痛、動悸、めまいなどは多い身体反応であり、
精神的反応としては、憂うつ、興味減退、楽しみの喪失、
能率減退、強迫性症状、躁状態、被害的感情などいろいろとある。

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ストレス反応と大きくまとめて、
体質性、急性、慢性と分けるのもいい。
これで「うつ病」という呼び名とさよならできる。

ストレス反応分類
       体質性ストレス反応 急性ストレス反応 慢性ストレス反応
体質      弱い          普通          強い(強いからこそ10年も続けられる)
ストレス要因  普通          急性で強い      慢性で持続性
環境調整  無効          休養のみで復帰  環境を変える
症状      ヒステリー反応系 パニック系       うつ病系、ときにPTSD系
骨のたとえ 骨が弱い      交通事故       ラグビー部で何年も特訓

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骨折したという場合にも、
大腿骨と足の小指ではずいぶんと違いがある

病理と症状は違う




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