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インフル問題についての見解

◆「今の状況は政府が招いたパニック」- 厚労省検疫官・木村盛世氏に聞く 
「大本営発表」を繰り返す厚労省、医療者からの正しい情報発信が重要 

 「新型インフルエンザで封じ込め対策は無意味。今の検疫は人権侵害と問題視される可能性はないのか」。今の政府の対策を強く批判するのは、現役の厚生労働省検疫官(東京空港検疫所支所・検疫医療官)で、医師の木村盛世氏。WHO(世界保健機関)が推奨していない機内検疫を中止し、国内対策に重点を置くべきだと主張する。「厚労省は大本営発表を繰り返すだけ」と問題視する木村氏は、「医療者自らがWHOやCDC(米国疾病対策センター)などの情報を入手し、情報発信していくことが必要」と説く(2009年5月10日にインタビュー)。 

――今の機内検疫などの封じ込め対策は無意味だと指摘されています。例えば、国際的には機内検疫などは行われていません。5月7日にWHOは改めて見解を示しており、(1)検疫に、疾患の広がりを減らす機能があるとは考えていない、(2)国際交通に大きな影響を及ぼす方策を取っている国は、WHOに公衆衛生的理由と、その行為のエビデンスを提出しなければならない、としています(WHOのホームページ http://www.who.int/csr/disease/swineflu/frequently_asked_questions/travel/en/)。 

 歴史上、新型インフルエンザで封じ込め対策が有効だった例はありません。WHOは検疫、国境封鎖には意味がないと以前から指摘しており、現在、検疫を実施しているのは日本などごく一部の国です。WHOのほか、米保健福祉省(HHS;United States Department of Health and Human Services)の最高責任者も務め、WHO天然痘根絶チーム初代部長のD.A..ヘンダーソン率いるバイオディフェンスチームでも、検疫は有効ではないとしています(Center for Biosecurityのホームページ http://www.upmc-biosecurity.org/website/focus/2009_H1N1_updates/isssue_briefs/20
09-04-28-BorderClose.html)。また2003年のSARSの流行時でも、検疫が有効でなかったという報告があります(CDCのホームページhttp://www.cdc.gov/ncidod/EID/vol11no01/04-0835.htm)。 

 さらに、CDC(米疾病対策センター)では、5月5日に、学校閉鎖などは推奨しないとの声明も出しています(米保健福祉省のホームページ http://www.hhs.gov/news/press/2009pres/05/20090505a.html)。 

――なぜ封じ込め対策は有効ではないのでしょうか。 

 インフルエンザの臨床症状は咳や発熱などですが、これらを呈する疾患は多々あり、新型インフルエンザに特有の症状はない上、季節性のインフルエンザと新型インフルエンザは症状からでは区別が付きません。また、迅速診断キットの精度も100%ではなく、潜伏期間の問題もあります。WHOでは潜伏期間は最長1週間と言っていますので、3泊4日など短期間で帰国する人は検疫で把握することは難しい。また最近では、1週間で世界各国を周るビジネスマンもいますが、今の機内検疫はまん延国(メキシコ、米国、カナダ)からの便が対象なので、彼らが途中でまん延国に立ち寄ったとしても機内検疫を受けないことになります。 

 インフルエンザは、日本語で言えば、流行性感冒。幸い、今回の新型インフルエンザは弱毒性です。にもかかわらず、政府は「日本で一人でも、流行性感冒の患者を発生させない」という姿勢なのですから、不可能なことを求めているのであり、狂気の沙汰としか思えません。インフルエンザ対策では、「いかに集団として免疫を獲得するか」を目指すことが必要です。その間、健康被害の発生を最小限に抑える、つまり感染者の数を抑え、かつ重症者を出さないかという姿勢が重要。「一人も感染者を出さない」のは無理なことなのです。 

 封じ込め対策が有効なのは、天然痘など、見ただけで診断が付き、かつワクチンが有効であるなど感染拡大防止策が確立している疾患に限られます。 

――政府は、検疫のためにサーモグラフィーを今回新たに151台購入したそうです(5月8日の参議院厚生労働委員会での民主党・足立信也氏の質問に対する厚労省の回答)。 

 従来、サーモモグラフィーは1台約180万円だったのですが、今回購入したのは、新型インフルエンザ対応機種ということで、約300万円だったと聞いています。しかし、臨床試験などで有効性が確かめられたのでしょうか。 

 また、機内検疫には国立病院の医師なども動員されていますが、それよりも国内対策、あるいは日常診療に携わっていただくべきではないでしょうか。 

 機内検疫、停留措置や隔離は、検疫法に基づいて実施されていますが、検疫法は飛行機での渡航が一般的でない時代の法律。それを現代に当てはめているわけです。先日のBBC(英国国営放送)では、日本と同じく島国である英国のヒースロー空港と成田空港を比較していました。ヒースロー空港では機内検疫などは実施していません。あの報道を観た人には、日本の検疫は異様に映ったのではないでしょうか。停留対象となった方の人権問題などに発展する懸念もあります。 

――では今、どんな対策に力を入れるべきなのでしょうか。 

 先ほども言いましたように、今回の新型インフルエンザのウイルスは弱毒性ですから、まずパニックにならないようにすること。今、一番、パニックに陥っているのは政府ですが。疑い患者が出れば、「シロかクロか」と言う目で見る。それを記者会見し、マスコミも報道する。まるで罪人のように扱っています。 

 そして、機内検疫などをやめ、国内の体制整備を行うことです。国民に対しては、具合が悪かったら、自宅静養するよう呼びかける。流行性感冒の基本はホームケアです。また「咳エチケット」、つまり自身が咳などをしている人にはマスクの着用を徹底させることです。でも、なぜか日本は全く症状がない方がマスクをしています。マスクが感染予防になるというエビデンスはないのですが。 

(後略。全文はこちら http://www.m3.com/iryoIshin/article/97613/) 


Vol.11◆国は水際対策の誤りを認めるべき - 厚労省検疫官・木村盛世氏に聞く 
国が取るべき対策はシンプル、医療機関は通常対応でも問題なし 
(2009年5月17日にインタビュー) 

――国内で2次感染例が相次いだことをどう見ていますか。 

 今回はたまたま開業医の先生が、迅速診断キットでA型陽性の患者のPCR検査を依頼して見付かったわけで、それ以外にもたくさん感染者はいると思います。実際、インフル エンザの定点観測では、今回2次感染が見られた中で、患者数がやや多かった地域もあると聞いています。こうした定点観測の動向把握に力を入れるべきだったのに、これまで国 は「検疫オンリー」でやっていました。私は繰り返し言っていますが、インフルエンザの場合、水際対策は無理なのです。 

 米国でも検査を始めたから、あれだけ患者数が増えているわけです。日本も同様に、検査を実施すれば、もっと新型インフルエンザの患者は見付かるでしょう。 

――今までは、渡航歴がある、あるいは渡航歴のある人と濃厚接触した人などに限って、PCR検査を実施していた。それ以外のインフルエンザ様の患者でも、PCR検査を実施 していれば、新型インフルエンザであった可能性があるわけですね。では現在、季節性のインフルエンザの流行もある中、今後はどんな体制にすべきなのでしょうか。国の新型イ ンフルエンザ対策の第二段階、「国内発生早期」では、「感染の疑いのある例についてはすべて検査をする」となっています(5月16日新型インフルエンザ対策本部専門家諮問 会議『「基本的対処方針」の実施について』)。しかし、迅速診断キットの在庫は十分とは言えません。衛生研究所も対応可能なのでしょうか。 

 本来ならすべての疑い患者に検査すべきでしょうが、それは無駄ではないでしょうか。疫学的見地から言えば、本当は新しい疾患が出た場合には、サーベイランスを徹底したい ところです。しかし、今の政府のパニック状態を考えるとサーベイランスだけに労力が費やされ実際の医療現場に手が回らないという状況を生むのではないでしょうか。今後はサ ーベイランスにお金と人をかけると、「感染者を発見したのはいいけれど、そのあとどうしたらよいか分からない」という状況にもなりかねません。 

 感染症対策を考える上で基本になるのが結核対策ですが、結核の場合は発見率と治癒率を指標として見ます。両方を向上させることが一番いいのは確かですが、多くの国におい ては、「ヒトとカネ」がありませんから、実際には両方はできません。優先すべきは明らかで、治癒率の向上です。 

 日本は結核患者も多い「感染症の発展途上国」。ですから、サーベイランスに命をかけても仕方がないと思います。物事の優先順位を決めることこそが、政策の役割でしょう。 結核とインフルエンザを同じに考えることはできませんが、すべてできないのなら、何らかの対策を「捨てる勇気」が必要です。今回では、そもそも機能していないサーベイラン スを徹底するのではなく医療機関対策を第一義とすべきです。 

――では治療のあり方ですが、「国内発生早期」では、「発熱や咳などのインフルエンザ様症状が見られた場合には、まず発熱相談センターに相談の上、発熱外来を受診する」と なっています。 

 発熱外来で対応できるのでしょうか。それだけの予算が付いているわけでもありません。 

 今、国がやることは、「新型インフルエンザ対策行動計画は間違っている」、少なくても今回の新型インフルエンザA(H1N1)には適用すべきではなかったと認めることで はないでしょうか。また、H5N1型であっても、インフルエンザの「封じ込め」については難しいのではないでしょうか。 

 咳エチケットを徹底して、発熱や咳がひどい時には学校や会社を休む、具合が悪かったら自宅で静養する、それでもどうしても具合が悪かったら、「ここの病院に行ってくださ い」、こうしたことを国は繰り返し国民に訴えればいいだけです。今やるべき対策は非常にシンプルです。 

 また発熱外来も、3次救急、あるいは高次の医療を手がける地域の中核医療機関の場合、抗がん剤で治療中だったり、白血病など、免疫力が低下した患者さんが多いですから、 こうした医療機関に設置を求めるのはやめた方がいいと思います。「発熱外来」は、地域と地元の医師会が話し合い、どこに設置すべきかを決めてほしいと思います。 

――季節性インフルエンザと同じ対応では、問題があるのでしょうか。 

 本来は同じで構わないと思います。ただ、社会的な問題になっている現状を踏まえると、「発熱外来」の設置は、国民の安心の意味でも必要なのだと思います。ですから、国は 「何かあったら、発熱相談センター、発熱外来」へと、柔らかい口調で言えばいいだけのことだと思います。 

――発熱外来を持たない医療機関が対応しても問題はないと。 

 問題はないと思います。これまで季節性のインフルエンザの診療を行ってきたわけです。しかも、今のH1N1型の場合、SARSのように重篤な肺炎を来す患者が続出するわ けではありません。 

 本当に、今回は弱毒型のH1N1型での模擬訓練だったと思います。検疫には意味がなかった、では国内対策として何をすればいいのか、ワクチンが完成した場合にどのように 流通させ、誰に優先的に接種するのか、副反応の問題はいかに周知徹底するのか、発熱を来した場合にはどう対応すれば、いいのかなどを考えるいい機会にはなったのではないで しょうか。サーベイランスの機能も十分でな方のでこれに関しても第二波までに十分議論すべき問題ですが。


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