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インフォームド・コンセントについての変化の現状

以下の記事。参考に採録。

 妊娠18週の超音波検査でCPC(脈絡叢嚢胞 Choroid Plexus Cysts)が見つかったことと、そのときの病院の対応振りに驚いた。それから2週間後、偶然にも同じBrigham&Women's Hospitalの産婦人科カンファレンスで、インフォームド・コンセント関連のレクチャーがありました。

 講師を担当したのは病院のリスクコミュニケーション(リスク管理に関する医師と患者さんの合意形成とでも言ったらよいでしょうか)を統括する専門家です。レクチャーの冒頭、彼は、インフォームド・コンセントで実際に使われている同意書について、「中学卒業レベルの学力では理解できない言葉がたくさん使われている」と問題を指摘しました。

 「これではまるで医師が何かを隠しているように、あるいは言い訳をしているように受け取られてしまいます。患者には悪いニュースしか伝わりません」という彼の言葉を、年配の医師たちやResidentたちがうなずきながら聞いていたのが印象的でした。

 彼いわく、インフォームド・コンセントの基本は、「不確かな状況であり、何も保証できない」という、治療における医師のlimitation(限界)を強調することだそうです。レクチャーでは、患者に悪いニュースを説明するときの表現を、具体的に説明していました。
 例えば、薬の副作用を説明するときの切り出し方としてお薦めの表現はこうでした。

I wish I could give you a medication that has only positive effects…
「良い効果しかない薬を処方できればいいんだけど…」

 だがもちろんそれは不可能であり、どんな薬にも良い作用があれば副作用もある、ということを匂わせる言い方です。

 また、患者自身に治療方針を決めてもらう場面で、彼は3つの悪い例を挙げました。

Pick one. 「1つ選びなさい」
It depends. 「人によります」
It's up to you. 「あなた次第です」

 胎児に異常が見つかったときに、私が言われた言葉もここにありました。良い例はこうです。

We are in the same place and share with you this uncertain, and no guaranteed situation. However, we are happy to help you.
「私たちドクターもあなたと同様、病気の可能性については分からないけれど、一緒に考えるお手伝いをします」

I am here and if something bad happen, I will be still there to share with you.
「私はここにいますし、今後何か悪いことが起きても、やはり一緒にいます」

I will do my best, but we are in the same place. 
「ベストを尽くして一緒に考えますが、私もあなたと同じで(病気の進行については)わからない状況です」

This is what I will do if it would be my mother.
「私の母親であればきっとこうするでしょう」

 これは臨床医に必要な一つのテクニックと言えるでしょう。

 患者にすべての決定をゆだねる産婦人科Residentの言葉に「突き放された」と感じ、憤慨した私でしたが、周りの医師たちがレクチャーで真剣に聞き入る様子からは、アメリカでは、私が想像していたほどこうしたコミュニケーションのテクニックが普及していないのではないかと思えました。

 アメリカの医療現場は、インフォームド・コンセントの転換期を迎えているようです。アメリカでは1950年代から1960年代にかけて、裁判で医師が過失や傷害の罪に問われる判決が相次いだことから、インフォームド・コンセントの概念が生まれました。70年ごろには、医師側の訴訟対策という観点からのインフォームド・コンセントが確立しました。

 日本でも1980年代以降、それ以前の「患者にはあまり詳細を説明せずに医師が治療方針を決定する」というスタイルへの反省から、「すべてを患者に話し、すべての決定権を患者にゆだねる」というスタイルへの転換が進められて来ました。

 しかし先行したアメリカでは、「医師が責任を取らずに済むよう、説明後の決定は患者に任せる」という行き過ぎたやり方による弊害も認識され始めています。今はまさに、「患者による治療方針の決定に医師が全くかかわらないのではなく、患者に寄り添って意思決定を助ける」という、レクチャーで紹介されたようなスタイルへの移行が模索されている時期なのではないでしょうか。

 ICを始め、医師と患者のコミュニケーション・スキルに関しては、日本はアメリカと比べて30年遅れているともいわれており、私自身、研修医時代に教わったアメリカ式のインフォームド・コンセントが日本よりも優れたものだと、何の疑いもなく信じていました。しかし今回、アメリカ式のインフォームド・コンセントが行き過ぎた場合どうなるのか、という一つの典型を見ることができ、ぜひ日本の皆様にもお伝えしたいと思いました。

 幸い、胎児の脳に見つかった異常は28週の再検査では消失していました。患者としての体験から得た問題意識と、レクチャーの内容が偶然にも一致したことに感謝するとともに、4回目の妊娠であっても、やはり毎回思わぬことが起きてハラハラさせられるものだと、別の意味でも勉強になった経験でした。














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