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神田橋PTSD

Theme: 神田橋條治先生の講演録

2006年9月16日札幌市で行われた神田橋條治先生の講演録です。

 

 

神田橋   このPTSDの治療は、10年以上も苦労してきたのがようやくまとまりました。まとまったとは、自分が毎日診療しているうえでほとんど困らなくなったという程度のもので、学問としてまとまったという意味ではありません。それを今日、初めて皆さんにお話しします。10年ぐらい苦労しましたので、あらゆる治療法をいろいろ試してみました。ですから、お話しする中にはオカルト的なものから生物学的な示唆を持つものまで全部込みです。体系ではありませんから、どこか一部分だけをちょっと使ってみようかと思ってくだされば、その部分だけでもいくらかの役に立つと思います。「全部がまとまってないからわからない」といわずに、どこか一部分だけでも持ってお帰りになってください。

 

僕は、DSMは嫌いですから、ここでPTSDと申し上げるのも、DSMで定義されているPTSDとは違います。それを説明するのに、僕の個人のPTSDをお話ししましょう。

 

日本が敗戦になりましたとき、僕は小学校3年生だったんです。昭和20年の春に米軍のB29がやってきて、僕の家も全部燃えました。子どもたちはみんな防空壕に入っているのですが、ヒュルヒュルーッという焼夷弾が落ちてくる音がしまして、それがドンと落ちたら、自分の所に落ちなかったと安心するわけです。それまでは自分の所に落ちるかもしれないのです。爆弾と違って焼夷弾ですから、わっと燃えるぐらいのことで爆発の被害は少ないですが非常に怖かったのです。

 

焼夷弾のヒュルヒュルが終わりますとB29は向こうへ行きますから、防空壕から顔を出してみますと、あちこちで燃えていますから大人たちがみんなで水をかけたりするわけです。そうするとB29は旋回しまして、今度は超低空でもう一度やってきまして、消化活動をしている人たちを機銃掃射するんです。見ていると、機銃掃射するときの米軍の航空兵の顔が見える所まで下りてきます。見える限りの空の半分ぐらいが1つのB29で覆われたような感じになって、そこからニヤッと笑ったりして撃っている人の姿が見えます。僕はそう記憶しているのですが、ひょっとしたらそうじゃなくて、付き添っていたロッキードの戦闘機だったかもしれません。ともかく空が全部覆われて物凄く怖かったのです。それが行っちゃって、外に出ると、庭にこのぐらいの機銃の真鍮の色をした弾がいっぱい地面に突き刺さっていたりしました。そういうことがあって、それがひどく怖い思い出でございました。それから間もなく日本は負けたんです。

 

それが僕のPTSDであります。それから50歳を越えるぐらいまで、繰り返し、繰り返し、夢に出てきまして、「もう駄目だ。もうこれで終わりだ」というような感情を伴った夢で目が覚めたりしました。だんだん慣れてきますと、夢を見ているにもかかわらず、これはまたいつもの空襲の夢だということがわかって、「怖いから急いで覚めよう」と夢の中で思って、ぱっと目を覚まして、それから、「また寝ようかな。寝るとまた夢が来るかな」と思っているようなことが、程度は薄れましたが、最終的には50歳ぐらいまで続きました。つまりPTSDというものは、そんなに長く心の中に残るのです。

 

じゃあ現実生活ではどうなのかといいますと、僕がそれに関連しているなと思うのは、天井の低い所に行くとすごく嫌なんです。天井の低い、すぐこの辺まで天井があるようなホテル。ホテルは低いでしょう。それが嫌だったんです。でも、今はそれもよくなりました。

 

それから、いつだったか、『未知との遭遇』という宇宙の映画がありまして、向こうから宇宙船が来て空全体を覆うシーンがありました。そのとき、ひどく怖かったんです。そして何が起こったかというと、それ以後、B29の夢は出てこなくなって、いつもその宇宙船が来る夢。それも最近は消えました。もうすぐ70歳になりますので、ようやく消えたんです。長かったです。

 

そういうものをPTSDに含めています。つまり、PTSDとは、ある心理的な外傷体験の記憶、その記憶の再生に関連して起こってくる、不安状態が、現在「here and now(ヒヤ アンド ナウ)」で動いている精神活動に阻害的に働くことをすべてPTSDと僕は考えているんです。ですから、DSMのPTSDと違うわけです。違うけど重なってはいるんです。したがって、PTSDは、神経症から、僕みたいな正常な人から、スキゾフレニアから、双極性障害から、自閉症から、すべての人にあり得るわけです。あらゆる精神疾患に併存し得る。併存し得るだけでなく、PTSDは、そのもう1つの病気を治らなくします。悪くします。ですからPTSDの治療は精神科の治療現場ですこぶる大切なのです。

 

PTSDの治療において僕が依拠している枠組みは、中井久夫先生がお訳しになった、ハーマンさんの『心的外傷と回復』です。あれが、治療上、一番役に立つと思います。ハーマンさんの本は非常にいっぱい書いてありますから読みにくいですが、簡単にいいますと、PTSDの人の治療はまず、安全な、「安心できる今」をつくってあげる。そのためには主として環境でしょう。環境として、その人が「安心できる今」をつくってあげる。「今」というのはここに現実としてありますから確かな環境です。その次には、この安心できる環境から PTSDという体験を眺めて、それに対する意味づけとか納得とか何かをしていく。「今」を直接にゆさぶらなくなったこの体験は自分を圧倒するものではないので、自分の懐にこの体験を入れ込んでしまう。自分の人生史の中に組み込むことによって、外傷体験は歴史上の出来事として定着される。それがハーマンさんの治療の骨子であります。それに沿って治療をやっています。

 

ここで精神分析のお話をちょっとします。それは、精神分析が役に立つという話では全然ないのです。皆さんが、私の話を聞いて理解してくださるための理論の枠組みとして精神分析の話をします。

 

忘れられた記憶というのがあります。忘れられた記憶は、抑圧された記憶。そいつをもう一度わざわざ引っ張り出して、あれはこうだったとか、今から考えたら思いすぎだったとか何かやって、そしてもう一度、意識された自分の歴史の中に組み込むわけです。組み込むと、それで治療が終わる。なぜ治療が終わるかというと、僕の今のPTSDの観点からの理解でいいますと、一生懸命忘れてしまう、思い出さないようにしてしまうという行為は1つの記憶の領域における回避ですから、その記憶が再生してくる契機になるようなさまざまな活動場面をもまとめて回避します。そうしないと、また思い出すかもしれない。だから回避する。そうすると、自分の精神的な資質や与えられた幸運で仕事のチャンスがあったりしても、それを回避するから生活が狭くなっていく。狭くなっていくことから、内に歪みが生じる。そこで治療者が支えながら、「そんなに忘れなくてもいいじゃないの。思い出しましょうよ」といって記憶が思い出されて歴史の中に位置づけられる。そこで、今まで回避されていたさまざまな能力も状況も、あまり不安なく直面できることになって、精神生活ひいては行動範囲が広がってくるというのが、記憶の面から考えたときの精神分析の治療であると思います。

 

じゃあ、精神分析をしてはいけない人はどういう人か。これは昔からいわれています。忘れてしまう能力がない人。何でもかんでも思い出すような人は、精神分析をしてはいけないのです。そういう人は治療が終わった後、帰りに自殺したり、何をするかわからないから。だから、精神分析の中であたかも悪いことのようにいわれている抑圧とか、回避とか、サリブァン流にいえば「意図的な盲点」というものは、少なくとも過去のその時点における有効なコーピングであったわけです。そのコーピングでやってきた、何とかそこを過ぎてきたけれども、しかし、そのために随分と生活が不自由になっているから、もうぼつぼつそのコーピングはいらないんじゃないのということであって、まだ必要な人にコーピングをやめさせたらしっちゃかめっちゃかになるわけです。だから、精神分析がやっていることは、その人の人生において時代遅れになった、もういらなくなっているコーピングの構えがいまだに続いているせいで人生が貧困になっていることの、その部分を解消することであるわけです。それはあとでPTSDのお話に絡めて申しますから、精神分析全体をある特定の角度から照らしてお話ししているのです。

 

その観点に立ちますと、最近、腹立たしいのは、池田小学校でも長崎でもそうですが、何か事件が起こるといろんなチームを作って、外傷体験がどのぐらい子どもたちに影響を与えているかを、行って調べるんです。「夢を見ますか」とか、「やっぱり思いだしたら気分が悪いですか」と。あれはほとんど犯罪だと僕は思います。記憶が定着していつでも思い出せるようにするために勉強の復習というのがありますね。予習復習の復習。復習は、記憶をいつでも思い出せるように、忘れないようにするわけです。さっきの僕の話でいうと、「そのうち時間とともに忘れるよ」「そのうち過ぎていくよ」ということをさせないように、「思い出すでしょう?思いだしたらドキドキしますか?」「どんなふうに記憶に出ますか」といって復習させれば忘れられないようになって、それはPTSDをつくる作業だと僕は思うんです。ああいうのは検査しないで早く忘れてしまうようにする。その子どもたちは自分のそういう場面を避けたりして生活が狭まっていますから、もう少し時間がたって20歳とかになって、自分の生活力、精神的な力が増えたときにもう一度、忘れていたものを引っ張り出して精神分析をする時期が来る。今したら、血が出ているのに「痛いね」とか言ってなでたりするような実にけしからん治療というか、行いだと思って、あちこちで、「あれは悪魔の所業だ」といっていますが、どうでしょうね。

 

今話したことの中にPTSDの治療の骨子が全部あります。つまり記憶は、こっちが「よし、記憶を思い出してみようか」といって、治療者との間に安心できる間柄の雰囲気ができて、「勇気を出してひとつ共同作業で思い出してみましょうか」とやってるのではないのに、パンパン記憶がよみがえってきたらどうにもならない。それではとても日常が安定するはずがないです。これがフラッシュバックです。

フラッシュバックというものは突然来ます。例えば阪神大震災がありますね。阪神大震災の後で、風で木の葉が揺れたり、子どもが貧乏揺すりをしたり、そういう揺れるというようなものを見ると、それ自体は大震災の記憶じゃないのですが、大震災のときの体験全体がフラッシュバックして、「やめて!」とかいう。揺れるような電気のひもを全部外すとか、理性では、「ばかばかしい。ぜんぜん関係ない」とわかっていても、揺れるものを見ることによって生理的に記憶がよみがえってくるのです。ただし、これは必ずしも脳の不適応的な活動ではないかもしれないです。自分に重要なことについての一発学習というものの有効な活動だと思います。条件反射で学習するのでなかったら学習はできないということになったら、何度も痛い目にあってひどいものです。5回ぐらい地震にあわないと地震の時にぱっとよけることはできない。だから重大なことについては、おそらく一発学習するように脳ができているんです。そうでないと、しょっちゅう痴漢にあったりしたらたまりません。だから、重大なことについては必ず一発学習というのがあるんだと思います。そういう一発学習の能力が裏目に出ているのです。脳はもちろん、いらないときに思い出してもしょうがないから、一生懸命これを押さえようとしているはずです。

 

ところが、このフラッシュバックというものはなかなか押さえられません。中井久夫先生がどこかで書いていらっしゃったけれども、スキゾフレニアに抗精神病薬をやって、ある程度うまく治まったけれども、ある特定の幻聴や妄想だけがどうしても消えないときに、それがフラッシュバックである可能性がある。僕もそれは何例か経験していますが、抗精神病薬が効かない。

 

フラッシュバックでもう1つ大切なのは、さっきのハーマンさんの、安全な環境というものをつくる必要があるということに関してです。治療者も本人も一生懸命、本人の不安が起こらないような環境をつくります。しかし、治療者の努力と全然関係なく、フラッシュバックによって無惨にも壊れるんです。被害者である患者さんの脳がささいなことで記憶をぱっと呼び戻しますから、安全な環境がすぐ壊れます。ハーマンさんは、それに対しては何も方法を持っていないんです。

 

ハーマンさんの方法でも、安全な環境をつくってじっと待っていれば脳は自然治癒力でだんだん良くなるから、僕の場合と同じように夢の中だけに出てくるようになっていけば、眠るときは怖いけど目が覚めたときは安全なんだというふうになります。しかし、僕は何か効くものがないかと思っていろいろやっていて、それを発見しました。

 

漢方です。四物湯(シモツトウ)と桂枝加芍薬湯(ケイシカシャクヤクトウ)という漢方があります。ツムラでいうと、71番と60番です。これを合わせて1日1回~2回、ひどい人は3回飲ませると、フラッシュバックは1~2ヵ月で随分軽くなります。これをどういうふうにして発見したかといいますと、ここら辺からだんだん怪しげになるので皆さんは嫌いかもしれないけど。僕は薬を使うときに、その人の全体の気をみます。向こうから気が来るのに薬を出して、その気を打ち消せるかどうかというのをみるんです。しかし、そんなことはどうでもいい。発見の経緯は怪しくても大切なのは結果だから、使ってみてください。

 

四物湯は衰弱した細胞を支えるような作用で、桂枝加芍薬湯はてんかんにも使います。そのふたつを使いながら脳をにらんでいましたら、こういうものが見えるようになったんです。(図1,2)


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これがまた皆さんは嫌いかもしれないけど。僕は邪気と呼んでいる、何かウッというような感じが、ここにこういうふうに見えるんです。これは僕だけが見えるのか嫌だなと思っていたら、僕の所に陪席にきている人も大体1ヵ月か2ヵ月するとわかるようになります。「出ていますね」といいます。横から見ますと、図2のようになっているんです。縦から見ると図1のように見えます。これを九大の黒木俊秀助教授に言ったら、「それは帯状回だろう」と。ここのどこかに海馬があるのでしょう。PTSDは海馬と関係があるという話があるけど、僕は海馬を見ているわけじゃなくて、おそらく帯状回でしょう。金沢で山口成良先生にお話ししたらやはり、帯状回だろうとおっしゃいました。僕は脳のことはあまり知りませんが、帯状回はほとんど運動系のトランスミッターか何かが集合しているんだと思っていましたが、最近、「情動とも深い関係があるということがわかってきたんですよ」と教えてくれる人がありました。

 

雑誌『こころの科学』の一番新しいやつがPTSDの特集をしています。また、ほかの人からもらった文献でも帯状回は情動と関係していると書いてあります。ところで、僕にはどうしてもこういうふうな馬蹄形にしか見えないんですが、そんなのはどうでもいいのです。四物湯と桂枝加芍薬湯の処方を出すと邪気が薄れていきまして、並行してフラッシュバックが消えます。僕は、この場所を抑圧した記憶の再生をコントロールする場所として、そのうちに誰か発見するかもしれないと思って楽しみにしていますが。それもどうでもいいんです。ここがくたびれているんだと思います。四物湯は、細胞のくたびれを良くする漢方ですから。桂枝加芍薬湯の方は昔、慶應の相見三郎という先生がてんかんに効くといって発表した漢方で、もともとは腹の薬です。この2種の処方を飲ませると、1~2ヵ月ぐらいでだんだんフラッシュバックが減ってきます。

 

邪気が見えると便利だけど見えなくてもフラッシュバックを見つけるコツがあります。すべての人の行動というものは連続性があるんです。なのに、突如として出た変化。症状が突然出た場合に、フラッシュバックを疑ってください。例えば、先ほどの症例発表で、双極性障害の人がコンビニの店員をぶん殴ったというのがありましたね。理性的な人だったのにぶん殴ったと。あれはおそらくフラッシュバックです。あれは、何か攻撃的なことをされたことがPTSDとしてあって、その店員の人のしぐさかことばによって外傷体験の記憶が誘発されて、店員さんが昔の歴史上の加害者と重なった瞬間に暴力が出ます。本人の理性は、この人と昔の人は別だということはわかっているんです。わかっていても止まりません。あとで反省はしますけど。そう考えると、精神分析での転移という概念は、実はひそかに起こっている小さなフラッシュバックのことではないか。転移とは、昔のことが今のことになってしまっているということだからです。だけど今はそれも考えなくていいです。

 

ところでボーダーライン・パーソナリティー・ディスオーダーとして僕の所に来た人は、もう30名以上。そういう診断の添書を持って回ってきた人には、僕の考えるボーダーラインは1人もいません。すべて医原性のものです。しかも双極性障害と僕が考えるいわゆる2型の人がほとんど全員です。それが境界例とか性格障害といわれるようになった理由は、昨年の『臨床精神医学』の4月号に書いていますけど、1つはマイナートランキライザーによる脱抑制作用。僕は慢性酔っぱらい状態といいますが。酔っぱらいで脱抑制になって抑えが効かなくなります。それは本人に聞いたらわかります。「自分はいろんな感情をもう少し抑えることができるような人間だったのにと、情けないと思いますか?」と聞くと、「はい」といいますから、それはマイナートランキライザーによるものです。

 

それから、抗うつ剤。アキスカルさんはできるだけ抗うつ剤を使わないようにというようなことをいっていますが、僕もそう思います。抗うつ剤を、双極性障害のメインの治療薬にすると境界例をつくると僕は思います。

 

それから、治療者が内省を誘発するような精神療法的な働きかけをするのも境界例状態を作ります。だけど何より一番大きい原因はフラッシュバックです。双極性障害の基本性格は人と親密な関係を作ろうとする傾向があるせいで、いじめを受けやすいんです。ともかくうつの人を診たら、わずか1分しかかかりませんから3つの質問をしてください。1つは、「いじめを受けていた歴史がありますか」ということを聞いてください。それから、双極性障害ではないかということを考えて、「中学ごろから原因のわからないスランプの時期がありましたか」と。スランプの時期があって、自然に良くなっていましたかと。躁は、問う必要はないです。躁はソフトですから、わからないです。「気分が良すぎたことはありませんか」と問うと、「いや、あのぐらいだったら良すぎません」というような話でつまらない。スランプの時期はありましたかということ。そして、自然に良くなっていましたかということ。そして、お父さんかお母さんの家系にそういう気分の波がある人がいませんかと。それだけ聞いてください。それで「イエス」だったら、診断はわからなくても、何が何でも気分調整薬をファースト・チョイスとして出してください。

 

 

そして、PTSDの質問はこんなふうにするんです。「思い出したくもない記憶や昔の気分が、突然吹き出してくることがありますか」と。「ささいな刺激によって誘発される」ということの、このささいな刺激の方は気がついていないことがありますから、突然吹き出してくることがありませんかと。これは、知的障害者で突然暴れて人をぶん殴ったりする人に聞くと、「うん」と、ものすごくうれしそうに反応します。思い出したくもないことがぱっと吹き出してくるという問いは大体わかります。IQ40ぐらいでもわかります。残念ながら自閉症には聞いてもわからないです。しょうがないから、脳の邪気が見えなくてもためしに。漢方はあまり悪いことはないから使ってみてください。投与してパニック発作が軽くなれば、それでいいんです。

 

ただ、四物湯は胃が悪くなることがあります。面白いことに、これが効いている間はあまり胃が悪くなりません。フラッシュバックが減ると胃が悪くなります。四物湯には地黄(ジオウ)という強壮剤が入っているんですが、そいつで胃が悪くなるんです。そのときは減量して1日1回にするか、四物湯に胃薬を加えたもので十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ)というものがありますから、そいつに代えてみてください。

 

それから、体がもともと虚弱な人は、桂枝加芍薬湯では合わないことがあります。自閉症でもそういう人はいますが、そのときは、これに水飴を加えた小建中湯(ショウケンチュウトウ)というものがありますので、そいつに代えてみたらいいと思います。

 

それから、フラッシュバックもあるけれども、常にいらいらしたり神経質だったりする人は、この桂枝加芍薬湯にカルシウムを入れた桂枝加竜骨牡蠣湯(ケイシカリュウコツボレイトウ)というのがありますから、それに代えて、こういう組み合わせで使うといいですが、基本処方はほとんど四物湯と桂枝加芍薬湯でうまくいきます。もうすでに漢方をやっている何人かの先生に非常に喜ばれていますから、これは確かです。

 

実はフラッシュバックに効く抗精神病薬はないといってきたんですが、漢方は飲めない人がいますので、そんな人はどうしようと思っていました。ひとつ思いついたんですが、それはピモジド(オーラップ)です。これはなぜそうか、わからないです。また皆さんが、「変なことをいう」と思うかもしれないけど。オーラップの1ミリの1/4錠ないし1/2錠を寝る前に。これが、四物湯、桂枝加芍薬湯の代わりになるかもしれないんです。なぜかは、わかりません。私の根拠はたった1つ。オーラップのこの1/4をこうして持っていくと、脳の邪気がこっちに伝わらなくなって減るから効くんじゃないかなと。先週、思いついたのですから「効くか効かないかもわからないけど飲んでね」といってもう5~6人に出しているんです。来週ぐらいに結果が出ます。1/4だからあまり害はない。ただ、SSRIとの併用がちょっと問題になるので、そうでない人でフラッシュバックのある人に使ってみてください。いいかもしれませんが、わかりません。この講演がペーパーになるころには、「~としゃべったけどもウソだった」とかいって、あとで書くかもしれません。大抵うまくいくんじゃないかなと思います。以上がフラッシュバックの処理なんです。

 

じゃあPTSDはフラッシュバックの処理でいいのか。そんなことはありません。しかも、フラッシュバックは押さえ込めばいいと必ずしもいえないかもしれない。フラッシュバックというものは、実は脳の記憶の系列が過剰負荷を減らすために行っている、脳という生体のコーピングである可能性があるでしょう。すぐに皆さんが思い出されるのは、フォースド・ノーマリゼーションの現象ですね。フォースド・ノーマリゼーションに非常によく似ていると思うんです。桂枝加芍薬湯という発作に対する漢方が入っていることから、何か似通ったものがありそうです。つまり、フラッシュバックを抑えることは緊急処置として必要だけれども、これは生体の自己治癒のプロセスに対して待ったをかけているかもしれないです。ですから、抑えて喜んでいたら駄目なんです。とりあえず緊急処置をして、そこから治療が始まるわけです。次に精神療法が必要なんです。

 

精神療法というと、好かない人もいるかもしれない。だけど、簡単です。今私が話したことは仮説ですけれども。「フラッシュバックがあるからあなたは安定しない。そうでないときは安定しているでしょう」というようなことを話して、それでこちらの治療方針とその治療方針の下に流れている仮説をお話しすること。これが最も精神療法なんです。つまり、インフォームド・コンセントが精神療法なんです。今どのような方針で治療がなされているのかということを患者自身が把握できることが、特にPTSDの精神療法なんです。なぜかというと、PTSDが起こった状況というものは、理解困難な部分、「なぜなんだ」「なぜ私がこのような目に」ということや、レイプ被害者の人だったら「どうしてなんだ」と叫びたい。そしてまたこの症状が起こってきて、なんでこんなことになったのかわからない。この「わからない」ということは、人間が知的な生物ゆえに特別に有害なんです。

 

大事なことをいいます。仮説ですから、わかったといっても真実かどうかわかりません。だけど、わかったという気分が持つ癒しの作用があるんです。水子供養などというのは、「なるほど、そうだったんだ」と、供養して、それでつじつまが合う。つじつまが合うと、確かにそれで良くなる。「あれはウソだ」といったらしかられるかもしれませんが、確かに治療効果がある。だから、つじつまが合って把握できたと思うことは治療効果がある。そう思うと、みんなあまり精神分析を嫌いにならないでしょう。もう隅から隅までつじつまが合ったと思うことで良くなるというのは、人間が知的な生物だからです。どうしてもその部分がうまくいかないと駄目なんです。

 

わかったという感じにして、そしてフラッシュバックが抑えられたら、ハーマンさんがいっているように、「もう一度、少しずつでもあの事件を一緒に眺めてみる?」といって、それから話し合う。せっかくフラッシュバックを抑えているのに、またそれを掘り起こすのは変だと思われるでしょうが、違うんです。フラッシュバックのときは、眺めようと思わないのに来るからかなわないんだけど、「眺めてみようか」といって身構えてからする。ボクシングでもそうでしょう。亀田選手のお父さんは棒の先に何かくっつけてヒュヒュッとやるけど、知らないのに毎日やられたらたまらない。「よし、今からボクシングの練習だぞ。身構えろ。いくぞ」といってからやるから練習になる。本人もその気があるから有効なのです。

 

精神療法でもすべては本人がやる気があってするんです。行動療法もそうです。山上敏子先生が来て話したと思いますけど、人間は動物と違うから、本人がする気がないのにしたら、めちゃくちゃに悪くなる。行動療法も、本人が自分に行動療法をするのを、治療者が助言したり一緒に助けたり。本人の力の足りないところ、例えば、我慢すれば不安がだんだん下がっていくというならそうしようといったときに、「それなら、あなたは自分では行動が制御できないから、私がギュッと握っていてあげようか」といって触る。そうすると、握っている治療者の手は、実は本人の意向でそうしている手であるという感じがあるわけ。人間は、自分でコントロールできているという感じが精神療法になるのです。

 

ところが、僕は今、大体1日50人ぐらいの患者さんを外来で診ていまして、そのうち新患が全国から大体3人~4人ぐらい来ますのでやっていられない。どうしても向こうがしたければちょっとぐらいは手伝うけど、5分以上は診療できないから困った。もう精神療法なんてやれないわけ。

 

そこで何を考えたか。PTSDは犬もなるだろうと。漢方を使ったら効くかもしれない。だけど、犬に「昔のことを思い出して話して」とか、「効いたから、それならひとつ、昔のことを一緒に思い出して」とやってもできませんね。

 

『こころの科学』を読んでください。僕は読んだらうれしかった。中井久夫先生がPTSDについて書いておられる。自分が観察した犬のPTSDの話を書いておられる。神戸の大震災で、やはり犬が駄目になるらしい。中井先生によく吠えていた犬が、おとなしくてほえる気力もなくなって死んでしまったとか、何例か犬の例が書いてあります。僕も前から、犬もPTSDになるはずだと思っていた。

 

この間、5月に九州で総会があって、中井先生が特別講演をなさった。素晴らしい講演でした。控え室で一緒に話したときに見たら、中井先生には脳の邪気があった。(会場・笑い)

 

これがあったから、「これはPTSDの脳です。フラッシュバックがあるでしょう。桂枝加芍薬湯と四物湯を飲みなさい」といった。僕は誰にでも何でもいうのです。そうしたら、「そうね」といって、何か変な顔をしていましたけど、それを飲んでみたというのが雑誌に書いてある。(会場・笑い)

 

ほかの患者さんに使ったけど、必ずしも2つ使わなくても、一方だけでも効く人もいる。中井先生は素直だから、神田橋先生がそういうから、自分はそれを飲んでみたと。そうしたら、阪神大震災のはわからないけれども、青年期の自分の外傷を思い出したときの迫力が減ったような気がすると。先生の家は岩盤の上に建っているので、大震災が起こったということは全然わからなかったそうです。本が1冊ぐらい倒れたぐらいで、先生のお宅はほとんど揺れなかったみたいなんです。だから脳の邪気は青年期のやつだったんですね。

 

しかし、それからその雑誌を見ていたら、今度は、性格障害と PTSDの問題を、岡野憲一郎さんが書いておられる。2つあるんです。PTSDで性格障害が起こるというデーターはもちろんあります。他方で、性格障害がある人はPTSDになりやすいという、それもデーターがあるんです。そうすると、鶏と卵で何だかわからないでしょう。この問題に対する答えを僕は考えたの。

 

それは、フラッシュバックがなぜそれほどに有害な力を持つかということ。ここに外傷があります。そこへささいなトリッガーになることがあると、外傷が引っ張り出されてきます。ところが、これに類似した幼い日の外傷があると、もう幼いときのことできれいに忘れていたはずなのに、この外傷がそいつをフラッシュバックします。沈静化して瘢痕のようになっているのに、こっちが強いものだからひきづられてフラッシュバックしてくる。芋づる式の体験。

 

そうすると、ハーマンさんのいう複雑性PTSD。幼児期に、例えば近親姦なんかで何年も何年もそういう害にさらされた人は、次々に芋づる式になっていき、性格障害と呼ばれる病像の本質的な形が完成する。そうすると、さっきの性格障害がPTSDになりやすいし、PTSDが性格障害をつくる、どっちがどっちということが一挙に解決するはずなんです。解決したって、説明がついたって一銭にもならないので、そこから治療が出てこないといけないでしょう。

 

それで、ここからだんだんとオカルト的になるから、嫌いな人は聞かなかったことにしてください。

 

東京の竹島希さんという、気の治療をしている人が気がついて、僕に教えてくれたのです。外傷体験があったころのアルバムに、例えば幼稚園児の外傷体験が写真に写っている。見ると、邪気がある。こいつを気の治療で取ると。そこからがオカルト的なのですが、写真の気を取る。写真がきれいになると、現在のその人の邪気が減るというんです。本当かなと思って、僕も少し気のことができるから、してみたらやはりそうなる。これは全然説明がつかない。

 

 

話は変わりますが、3歳、4歳ぐらいの外傷体験で一番多いのは、両親の仲が悪いとかそういうことじゃない。一番多い外傷体験は引っ越し。それを覚えておいてください。考えてみたらそうでしょう。子どもにとっては、見えている世界がぱかっと変わるわけだから。もう宇宙旅行みたいなものだ、「あれ?」と。

 

昔、九大にいるころ、神経症の治りやすかった人と治りにくかった人のバックグランドを、村田豊久君たちと一緒に調べたことがあった。何も有意差は出なかったけど、1つだけ出た有意差は、幼稚園までに引越しが多かった人が治りにくいということ。その意味は説明できなかったけれど、それを思い出して今しゃべっているのです。引っ越して世界がころっと変わったら、子どもはわからない。

 

対策としていいのは子ども部屋に地図を置いて、「ここからここへ行くのよ」とか、「ここを汽車と車でこうやって行くのよ」と。そして、前の世界は失われたんじゃなくてちゃんとあるということを確かめるために、お休みのときにでも、また同じルートを通って行ってみる。やはりなくなっていないということ、自分が動いたということがわかれば、そうするとそれで外傷体験は、幼い時だったらすぐに治ります。そうやって連続性が断ち切れないようにしてあげてください。それを何人かの人に教えてあげて、とても感謝されました。つまり、引っ越した後に寝小便が増えたり、じんましんが出たりしたのが治ります。

 

ところで歴史上の邪気を取るのに、僕はこういうことを工夫しました。害のない方法だから、これから先はしてみてください。写真を持って来させて、その上に本人の左手と、その上に右手を置く。左手を置いて、右手を置いて。その上に、お父さん、お母さんやら、家族の左手、右手、左手、右手と置いて。数が多いほどいいから。うちへ来た患者さんの場合は、僕が1人ですると気をつかって疲れるから、看護師さんを呼んできて5,6人で寄ってたかってバームクーヘンみたいに積んでやると、大体1分足らずで写真の邪気が取れます。そして、本人を見ると少しいいような気がするから、いいんだろうと思うんです。

 

そのうちに、写真はいらない。写真を持ってこさせたら手間がかかるから、ただ手だけを置いて。左、右、左、右と、本人の左手を一番下に置いて。夕食の前か何か、家族ができるだけたくさん集まっているときに、友達でも何でもいいですから集めて、それを30秒してもらってください。ご飯を食べる前に、黙って。何も考えなくてもいいから、ただこうして。するといいです。

 

何がいいのか。確実にいいことがあります。今僕が話したことは全部だめでも、確実にいいことがある。問題になっているほとんどの家庭は、一緒に何かをするということがない。そこへ毎日、30秒でも黙って何かを一緒にする。何か訳のわからないことを先生がいったから、治療になるのかもしれないからやってみよう。これが有効です。一緒の体験が。

 

それから、お互いにしゃべらない。対話をしない。これがいいの。ほとんどのけんかの源は話をするからです。黙っていればけんかにならない。けんかのない30秒を一緒に過ごすでしょう。だから、平和でしょう。行き違いがないでしょう。しゃべると、「それはそうだけど」とかいってお互いに意見が食い違う。黙ってこんなことをしていては意見は食い違わない。

 

これが本当に効果があるのかどうか怪しいなと思っていたら、僕の所に陪席とスーパービジョンに来ている、広瀬宏之先生という小児精神医学の先生の所、東京の国立成育医療センターというところに子どもの患者がいっぱいいるので5,6歳の子どもにしてみると、終わった後に子どもたちが「気持ちがいい」というそうです。

 

今、僕は、20歳とか18歳、17歳ぐらいの人たちの過去の外傷体験をやっているんですが、広瀬先生は、今、外傷体験の最中にいる人たちをやっているわけです。そうすると、子どもたちが「気持ちがいい」といって、目がぱっと開くそうです。だから、少なくとも現在の外傷にはいいんです。多人数で手を重ねてください。何か役に立つ。何しろ害がないでしょう。しゃべらないでしょう。方法を教えるだけでしょう。診療時間が短くて済むでしょう。「看護師さん、来て」といって、やっても5分以内に終わる。「これをおうちでやってね」「やっていますか」といったりするの。

 

それだったら、犬にもできるはず。犬にもPTSDがあって、犬も治療する。人間はことばを持っているから、ことばだけで構築されている世界。僕の一番新しい本でいえば、『ファントムの世界』。ファントムの世界を治療するのにはことばでないと駄目。犬にはファントムの世界はないから、必要ない。だけど、犬と共有している部分、ことばを使わないでやる治療というものがあり得るはず。だから、そう考えれば、もともとは時間を節約するためにサボりの精神からつくった治療だけど、治療というものの本質をついているんじゃないかなあ。

 

今やったのはフラッシュバックの治療ではなくて、PTSDの内容になっている不安、緊張、過去のごちゃごちゃしたいろんな感情の波を治療しているわけです。それは犬にもあるはずです。

もう1つ、話しておきます。これはオカルト的ではないけれども、あまり皆さんは好かないかもしれない。バッチフラワーというのがある。バッチフラワーを知っている人は変な精神科医なんです。心療内科の先生方はよくご存じです。エドワード・バッチという人が英国にいて、僕が生まれる1年前に死んだので古い人です。この人は、イギリスでやたらはやって金持ちになったお医者さんだったけど、だんだん医者をするのがあほらしくなったんでしょう。患者が病気をして医者がそれを治療するというんじゃつまらないじゃないか。やはり医学というのは、患者が自分で自分をいろいろ工夫して治せるという部分を広げていかないとしょうがないじゃないかというようなことをお考えになった。そしてあるとき、患者が自分でもできる治療法というのを探すために自分の診療所を閉めて、一生懸命に研究された。最後は、花のエキスというか、フラワーの波動を使うということに到達された。それでお金がなくなって、しんだときは貧乏だったらしいです。そういう人がいるんです。それで、38種類の花のエキスを使ってする治療法を考えられました。これはほとんど精神的な内容です。バッチ先生は何を考えたかというと、ほとんどの病気は心身症であると。あるいは、病気が治らなくなっているのは心身症である。だから、花によってその人の精神的なムード、霊的な世界を癒せば、それで自然治癒が急速に進んで、すべての病気が良くなると考えて方法をつくられたんです。

 

インターネットをなさる方は、「バッチ」の「フラワーレメディ」というので検索されますと、日本中にいっぱい店があります。アメリカではドラッグストアとかそういう所にも置いているらしいですけど。それをやってみられたらいいです。僕はいろんなものを探してこれに出会ったときはうれしかった。なぜかというと、その中に、「スター・オブ・ベツレヘム」というレメディがあるんです。これが面白い。これは花の名前です。これはバッチ先生が名前をつけたわけじゃない。バッチ先生が花を探しているときにそういう花があったわけ。おそらくキリストの誕生のときに賢人を誘導した星が「スター・オブ・ベツレヘム」じゃないかと思うのですが、その名前をつけられている花で、写真で見たらまっ白い五弁のきれいな花です。

 

この「スター・オブ・ベツレヘム」の適応にどういうことが書いてあるかというと、「過去にショックを受けたり、何かつらい目に遭ったりして、それを引きずっている人」というのがあるんです。これはもう、ぴったりじゃないですか。

 

これは販売しているんです。探せば、おそらく札幌でも店がいくつもあります。たいていアロマセラピーを扱っている店です。これは安いです。*1本2,310円。これを本来は8滴ぐらい使うのですが。これは使い方がありますけど、そこの店の人が教えてくれます。*2,310円で1ヵ月分ぐらいありますから安いものです。もう1年ぐらい「スター・オブ・ベツレヘム」を使っています。

 

それで気がついたのは、「スター・オブ・ベツレヘム」を使っても外傷体験自体はきれいに過去のものにはならないということです。ただ、外傷体験を思い出したときの迫力、思い出したときの本人の心が揺れる程度が軽くなるんです。軽くなるから、その問題を話し合える。話し合うのがしやすくなる。「どうですか、時々やっぱり思いだす?」「思い出した時はどんな?」というようなことは、5分の診療の間でもできます。それが本人を揺さぶって、またリストカットになったりするようなことが減ってきます。このバッチフラワーは病的な構造を処理しているわけではなくて、病的な構造の中に大量に備給されている精神的なエネルギーというか、別のことばでいえば、スタンスのゆがみが修正されていくので、そういう外傷体験とか恐れとかいろいろなものがあっても、そこにばかりに固執したような意識のスタンスでなくなるということであろうと思います。それはどうでもいいのです。治療として使うととても有効です。

 

そして、ここにもまた大事なことがあると思います。初めは僕が教えてあげるけれども、「バッチフラワーを勉強してください」と本人にいうんです。バッチ先生は「患者が自分で自分の治療をできるようにしょう」ということでこれを発明されたんです。これは試しても害はないから、いろんな本があるので本で勉強して自分で試してみて、バッチフラワーの38の中から自分用のものを選んでいろいろなときに使うようにしなさいと。勉強させる。

 

そうすると、そのことが PTSDにとってはまた著しく治療的なんです。なぜかというと、PTSDというものはほとんどパッシブな体験であり、そのとき、自分がその状況をまったくコントロールできなかったという体験です。だから、無力です。そしてその無力感というものが生活の中に瀰漫して、無気力であり、すぐにギブアップしてしまって手を切る。少し、「何くそ!」という人は根性焼きをしたり。根性焼きというのは前向きですね。「よし!」といってやる。無力から有力へと。だけど、自分でコントロールする方法を少しずつ少しずつ築き上げていこうとするスタンスは、生活の中から無力感をだんだん減らしていくという精神療法になるわけです。

 

三浦雄一郎さんはアルプスをびゅーっと下がっているから、あれは死の恐怖と闘いながらやっているんだろうけど、全然、PTSDなんかにならないものね。あれは好きでやっているんだから。スカイダイビングをやっている人もそうでしょう。あれは全然、無力感じゃないわ。自分で何とかうまくやってやろうということでやっているわけで、好きでやっているんです。好きでやっていてPTSDというのはない。PTSDが起こってくるのは全部、自分は全然する気もないのにそういう状況にさらされて、「あ~あ」というようなものです。「助けて」というようなものですね。そこを、「助けて」じゃなくて、「自分で自分を助けるぞ」というようなスタンスが生まれるということが精神療法なんです。

 

だから、精神療法でいろいろ難しいことをいうのは全部、根本の外なんです。ちょっとマニアの世界。やはり精神療法というものも本当に治療である限りは、犬や猫にもできる部分が本質。人間にしかできないのは趣味の世界でしょう。だけど、人間はうまいことをいってやらないことには、犬猫みたいにして「やってごらん」とかいっても、何とかかんとかいうて、やらないから、それにはやはりことばが必要だけれども。バッチのレメディをつかって次第に、自分なりに状況をコントロールしていこうとする。コントロールできるんじゃなくて、コントロールしていこうとするスタンスがついた瞬間にPTSDとしての治療は終わります。完成します。すると、薬はいらなくなります。それがPTSDの治療で、今のところ9割の人は成功していますので、僕はPTSDの治療についてはこれで完成だと思っています。

 

[追記]  神田橋   その後の経過でオーラップ(1mg)の1/4~1錠寝る前という処方はフラッシュバックの抑制に有効です。ことに知的障害のある人のフラッシュバックに有効です。また最近の経験ではエビリファイ(3mg)1~2錠の日中投与はフラッシュバックにもまた情動の不安定にも有効で使いやすいようです。漢方・オーラップ・エビリファイの使い分けや併用については現在模索中で結論が出ていません。

 


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