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永井荷風について2

永井荷風は孤高の文士として生きた。
社会との関係を最小限にとどめ、
都市の中の隠者となった。
その孤高を支えたのは経済的安定である。
優良株を買い、資産の運用に心を砕いた。
印税、原稿料、株の売買記録も、細かく記している。
他人に関わることをしないかわりに、
他人の世話にもならない。
個人主義を徹底するには、経済的な自立がなければならない。

*****
生きているからその証として日記を書くのではない。
日記(芸術)を書くためにこそ毎日を生きる。
荷風は実人生を芸術に捧げた。



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川本三郎「荷風好日」

永井荷風についての軽いエッセイ。

荷風の態度を、
敗残趣味とも零落趣味とも呼んでいる。
よく分かる。

教授職をさっさと引退し、仕事はしない。
東京の街を散歩し、私娼を相手に日々を暮らす。
二度結婚していずれもすぐに離婚、その後は終生独身を通す。
自由な高等遊民だった。
孤独を守ってくれた麻布の偏倚館を失ってからは世間の荒波が押し寄せて、
創作の筆も湿りがちとなった。

昭和29年の4月、荷風は国電の電車の中で、銀行の預金通帳を紛失した。
親切な米兵が拾って警察に届けてくれた。通帳にはなんと1600万円が入ってたという。
新聞に報じられると、全国から何百通もの無心の手紙が舞い込んだという。

金銭感覚についていえば、
空襲で焼けた麻布の偏倚館の宅地を昭和23年、79950円で売却。
市川の一戸建てを購入して、それが30万円と紹介されている。
1600万円の通帳を持っている人間が、と考えれば、疑問であるが。

最期は誰にも見取られずに一人で死去したらしい。
そのとき、部屋には森鴎外「渋江抽斎」の一ページが開かれていた。



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