アカデミー賞映画「月の輝く夜に」
シェール、ニコラス・ケイジ、オリンピア・デュカキスなど出演。
月も星も完全なのに
人間だけは不完全で
いつでも破滅に向かって突き進む
でも僕には今日しかない今しかないんだ
物語を浪費して楽しむ日々である
人の世の中にこんなにも物語が溢れているのはなぜなんだろう
人生に飽き飽きしている大学教授のセリフもよかった
そして彼は女が分かっていないのねと言われてしまう
山本周五郎「虚空遍歴」3
何とも救いのない話である。
すべては最悪の結末に向けて流れ込んでゆくのだ。
これが人生だとすれば、
どうして生きなければならないのだろうか。
光はどこにあるのか。
主人公にとっても、周囲の人にとっても。
不思議なことに、
ビルの高層階から地上を見下ろす構図が
頭に思い浮かぶ。
地上では、主人公が報われない必死の努力を重ねている。
ビルの上から私はそれを眺めて、
読書の楽しみはこれかなどと思っている。
主人公は苦しいが、そのことを認識することは、楽しみの一種である。
そして色即是空とか空即是色とか考えてみる。
地上では、主人公が仕事でも人生でも行き止まりの現実に、苦しんでいる。
ビルの上から私はそれを眺めて、
しかしそれでも、主人公は、大切な何人かの人間に支えられて生きた、
そのことが人生の実質なのだと思っている。
それは生きるに値すると思っている。
私自身も、地上で生きる人間としては、
人並みに苦しみの中に閉じこめられている。
紀野一義の書くところはこうである。
般若心経の「空即是色」の風光は、自己を否定し尽くした究極に、突如ひるがえって、仏のいのちの中に生かされているという実在感・肯定感を持って生きる人生を指している。
仏のいのちの中に生かされている、空即是色、これが、
高層階から地上を見る視点であると思う。