日本型タイプA
ストレス→うつの兆しを見逃さない
ストレス→うつの兆しを見逃さない
ストレスを受けると、脳や身体各部に様々な影響が出てくる。しかし、これらの変化の多くは目に見えないため、周囲の人間には分からないし、自分自身も認知できていないことが少なくない。
そこで今回は、自分のストレス状態を自分自身が認知するために、またストレス状態にある職場の同僚に気付くことができるように、ストレスをいくつかの段階に分け、各段階で起こる「外側から見える」変化について説明していく。
(1)「過剰適応」段階
最も軽症のストレス状態では、すぐに元気がなくなるのではなく、むしろ元気な感じになる。何かストレスがあっても、普通以上にきちんと適応できているかのように見える。この状態を「過剰適応」と呼ぶ。この時点では、本人はストレッサーに曝されていることに全く気付いていないことが多い。
過剰適応が問題なのは、本人が無理をして適応しているため、いつかは適応のためのエネルギーが枯渇して、ストレス状態が次の段階に進んでしまったり、身体的な病気(心身症)になったりする可能性が高いからである。
過剰適応は色々なきっかけで生ずるが、例えば、仕事を始めたばかりの研修医や、異動したり勤務地が変更になったばかりの医師によく見られる。具体的には、新しい環境に早く慣れようとして、遅くまで仕事をしたり、ミーティングなどでも積極的に発言するなどの行動が観察される。
もっとも、この過剰適応は、真面目な医師が「新しい職場で頑張ろう」という気持ちが強いときに表れる行動パターンであり、適応のためには、むしろ必要な段階であるとも言える。
(2)「神経過敏」段階
過剰適応の段階を過ぎると、精神的に過敏になり、イライラしたり、怒りっぽくなったりする。見た目にも疲れが見え始め、タバコの本数が増えたり、些細な刺激にも過敏に反応したりする。同僚と口論やけんかをしてしまったり、後輩をいじめたり、上司に対しても口答えするようになり、さらに悪くなると、看護師に当たり散らしたり、患者や患者家族とのトラブルに発展する場合もある。これが神経過敏の段階である。
神経過敏は、私生活にも影を落とす。自分の家族や恋人、友人とも、ちょっとしたことでけんかしてしまうことが多くなってくる。
この時期の、もう一つの客観的指標は「酒の飲み方」である。しばしば見受けるのは、酒を飲みながら職場や仕事について愚痴ってみたり、上司や同僚の悪口を言っている場面である。また、一緒に飲んでいる同僚や友人にからんだり、喧嘩をしてしまったりもすることもある。「最近、悪酔いしやすくなった」という人は要注意である。
(3)「無関心」段階
さらに悪化すると、いよいよ周囲に対して関心がなくなる段階に入っていく。それまで一生懸命がんばってきたのとは正反対の状態で、仕事への積極性もなくなってしまう。さらに、積極性や生き生きした感じが失われるだけでなく、仕事中も「うわの空」のように見えるようになる。その結果、つまらぬミスをしてしまい、それが大きな医療ミスの原因になる場合もある。そのことについて、上司から注意されたり、叱られても、特別に罪悪感を感ずることもなくなってしまう。
しかし、無関心だからといっても、これは「抑うつ的」とは違う。抑うつ状態のように、悲しいわけでも、憂うつなわけでもなく、心身が消耗した感じで「何も感じない」状態なのである。
この無関心段階では、休憩時間や自宅に戻ってからも、何かを積極的にすることはない。その代わりに、雑誌やネットで「求人広告欄」をボンヤリ眺めていたりする。とはいえ、この段階の人は、現在の仕事をやめて新しい職場を積極的に探しているわけでない。そんなエネルギーは、もうこの段階ではなくなっているのである。「ただ、なんとなく」というのが、この段階には一番ピッタリくる表現である。
(4)「引きこもり」段階
無関心段階を過ぎると、さらに周囲との接触を避けるようになる。具体的には、遅刻が多くなってくる。また、「神経過敏」の段階のように、外で同僚や友人と酒を飲んでウサ晴らしをするわけではなく、家で独りで飲酒するようになり、その結果、二日酔いの状態で出勤することも少なくない。医師の6人に1人はアルコール性肝障害と言われるが、このような段階に達している医師が多いのかもしれない。
(5)「抑うつ」段階
引きこもりを超えると、次は「抑うつ」段階である。この段階では、憂うつ、寂しい、悲しい、つまらない、といった抑うつ気分を本人もはっきりと自覚し、言葉にすることもできる。また「集中力がない」とか「頭が働かない」というような精神機能の低下や、「忘れっぽくなった」という知的機能の低下も見られるようになってくる。
さらに「何も手につかない」とか「何をするのもおっくうだ」といった具合に、運動性の抑制も見られるようになる。これらの症状が、朝や午前中に特にひどいという、「日内変動」も見られることがある。このように、この時期には、いわゆる「うつ病」の患者と全く同じ症状が認められるようになる。
この「抑うつ」段階も、精神症状を自覚できれば、評価や診断はそれほど難しいことではないが、精神症状がほとんどないこともある。例えば、不眠、食欲不振、体重減少といった身体症状だけしか認められない場合である。身体症状は、頭重感、頭痛、肩凝り、腰痛といった症状のこともあるし、下痢や便秘ということもある。このように、抑うつ感がないか、あってもごく軽度で、その代わりに身体症状だけが目立つうつ病を「仮面うつ病」という。
(6)「行動化」段階
この「抑うつ」段階が続くと、最終的には様々な「行動化」が見られるようになる。誰でも色々な感情や欲望を持ち合わせているが、それが行動という形で発散されてしまう場合を、心理学や精神医学では「行動化」と呼んでいる。外からは、衝動的で未熟と評価され、時に危険でもある。
具体的な行動化としては、例えば、無断欠勤もそうだし、何の将来的な展望もないのに、いきなり「退職願い」を提出すような衝動的な転職も行動化である。また、アルコール依存や薬物依存(これらは精神医学的には物質依存としてまとめられることもある)も行動化の表現型の一つであるし、さらにそれが極端になったのが自殺である。
うつ病と「悲哀の仕事」の関係 「喪失体験」「対象喪失」
青少年への抗うつ薬の効果は自殺リスクを上回る
青少年への抗うつ薬の効果は自殺リスクを上回る
27件の比較試験のメタ分析より
青少年に対する抗うつ薬の効果は、自殺念慮/企図リスクを大きく上回ることが示された。米国Ohio州立大学のJeffrey A. Bridge氏らの報告で、詳細はJAMA誌2007年4月18日号に掲載された。
FDAは2005年、4400人を超える青少年を対象とした24件の比較試験のメタ分析で、自殺完遂の報告はなかったが、自殺念慮または自殺企図が偽薬群の2倍(介入群4%、偽薬群2%)という結果を受けて、すべての抗うつ薬に対し、重大な副作用に対する表示上の枠囲み警告(boxed warning)を添付するよう求めている。
著者らは、枠囲み警告により、青少年の患者が未治療の状況に置かれるリスクは決して小さくないと考え、抗うつ薬の利益とリスクを再度検証することにした。文献データベースなどで1988-2006年に報告された中から、19歳未満の患者に第2世代の抗うつ薬を投与し、リスクと利益についてプラセボ群と比較した試験研究を抽出した。そしてFDAの報告に含まれていた研究の中から20件と、それ以降に行われた新たな研究7件の計27件を選び、メタ分析を実施した。
これら研究で用いられていた薬剤は、フルオキセチン、パロキセチン、セルトラリン、シタロプラム、エスシラロプラム、フルボキサミンといった選択的セロトニン再吸収阻害薬(SSRIs)と、ネファゾドン (セロトニン2A受容体遮断薬)、ベンラファキシン(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬:SNRI)、ミルタザピン(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬:NaSSA)だ。
対象疾患は、大うつ病(MDD)、強迫性障害(OCD)、OCD以外の不安障害の3つ。治療期間の中央値は、それぞれ8週間、11週間、11週間だった。
分析の結果、MDDでは、条件を満たした13件の試験(2910人)について、プールした絶対奏効率は、介入群61%(95%信頼区間58%-63%)、プラセボ群50%(47-53%)。プールしたリスク差は11.0%(7.1-14.9%)、治療必要数(NNT)は10(7-15)となった。一方、プールした絶対自殺念慮/企図率は、介入群3%(2-4%)、プラセボ群2%(1-2%)で、プールしたリスク差は1%(-0.1-2%)。危害必要数(NNH)は112となった。
OCDを対象とする6件の試験は、すべてSSRIを用いていた。分析対象となった被験者は705人。プールした奏功率は、SSRI群52%(46-57%)、プラセボ群32%(27-37%)で、リスク差は20%(13-27%)、NNTは6(4-8)だった。また、プールした自殺念慮/企図率は、SSRI群1%(0-2%)、プラセボ群0.3%(-0.3-1%)。プールしたリスク差は0.5%(-1-2%)、NNHは200。
OCD以外の不安障害では、6件の研究の1136人の被験者が分析対象となった。プールした奏功率は、介入群69%(65-73%)、プラセボ群39%(35-43%)。プールしたリスク差は37%(23-52%)、NNTは3(2-5)。プールした自殺念慮/企図率は、介入群1%(0.2-2%)、プラセボ群0.2%(-0.2-0.5%)。プールしたリスク差は0.7%(-0.4-2%)で、NNHは143だった。
以上のように、すべての研究で、プラセボ群に比べ介入群で自殺念慮/企図の頻度上昇が見られたが、適応症ごとに推算したリスク差には有意差はなかった。プラセボ薬に比べ抗うつ薬は、評価された3疾患に対して有効だった。効果は、OCD以外の不安障害で最も大きく、次がOCD、最も小さかったのがMDDだった。
今回の分析では、FDAが報告したデータに比べ、自殺念慮/企図のリスク差が小さい結果が得られた。その理由として著者らは、FDAの報告は固定効果モデルを使用し手いたのに対し、今回はランダム効果モデルを用いたことにあること、今回は新しい7件の研究を含んでいることにあると考えている。そして「第2世代の抗うつ薬は、第1選択薬の一つとして、それぞれの疾患に対する効果の差を念頭に置きながら、注意深い監視を怠らずに使用することが望ましい」と著者らは述べている。治療の選択は、医師と患者、患者の家族との話し合いにより決定すべきで、今回得られたような情報は、リスクと利益に基づく判断を容易にするはずだ。
原題は「Clinical Response and Risk for Reported Suicidal Ideation and Suicide Attempts in Pediatric Antidepressant」
三環系・四環系抗うつ薬でも「攻撃性」に要注意
三環系・四環系抗うつ薬でも「攻撃性」に要注意
北村 正樹=慈恵医大病院薬剤部
2009年8月末、厚生労働省が発刊した『医薬品・医療機器等安全性情報 No.260』に、「三環系、四環系抗うつ薬等と攻撃性について」が掲載され、改めて注意が喚起された。この三環系抗うつ薬および四環系抗うつ薬による「攻撃性」の発現に関しては、既に7月3日に厚労省が製薬会社に添付文書の改訂を指示し、各医薬品の添付文書も改訂済みであるが、『安全性情報』では、これまでの副作用症例などを含め、これまでの経緯が詳細に掲載されている。
抗うつ薬による攻撃性等に関しては、まず、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)とセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)に関して、それぞれの医薬品の販売開始から今年3月末日までの副作用報告が調査された。具体的には、この期間の副作用報告のうち、ICH国際医薬品用語集(MedDRA)日本版にいう「敵意/攻撃性」等に該当するものを抽出した結果、傷害等の他害行為のあったもの(他害行為につながる可能性があったものを含む)が39件あることが判明。このうち4件については、「服薬との因果関係が否定できない」と評価された。
これら副作用報告の多くで、躁うつ病、統合失調症患者のうつ症状、アルコール依存症、パーソナリティー障害といった状況が併存していたことから、厚労省は5月8日、製薬会社に対して添付文書を改訂するように指示し、「脳の器質的障害または統合失調症の素因のある患者」「衝動性が高い併存障害を有する患者」などが新たに慎重投与の対象となった。
一方、今回の『安全性情報』による注意喚起は、SSRIやSNRI以外の抗うつ薬に関するものである。SSRIとSNRI以外の13成分の抗うつ薬(三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬、トラゾドン塩酸塩、スルピリド)についても、SSRIやSNRIと同様に、今年5月15日までの副作用報告を対象として調査が実施された。その結果、傷害等の他害行為のあったもの(他害行為につながる可能性があったものを含む)が13件あることが判明した。また、このうち3件については、「服薬との因果関係が否定できない」と評価された。
これらの副作用報告例も、SSRIやSNRIの場合と同じく、多くが、躁うつ病患者や統合失調症患者のうつ症状等の依存障害を有する状況で抗うつ薬を処方されたことにより、興奮、攻撃性、易刺激性等の症状を呈していた。こうしたことから、これらの抗うつ薬でも添付文書の改訂が必要と判断され、厚労省は7月3日、製薬会社に対して添付文書を改訂するように指示した。ただし、13成分中、スルピリドについては、副作用報告はあるが、併用されたSSRIによる影響が大きいと判断され、今回の添付文書改訂の対象とはなっていない。
結果的に、この数カ月で、ほとんどすべての抗うつ薬に対し、攻撃性等の副作用に対する注意喚起が行われたことになる。既に抗うつ薬が投与されている患者や、これから投与される患者には、他害行為などの攻撃性に関する情報を含め、適切な情報提供が必要となろう。
なお今年6月、日本うつ病学会の「抗うつ薬の適正使用に関する委員会」は、患者やその家族向けに『抗うつ薬の適切な使い方―うつ病患者様およびご家族へのメッセージ―』(pdfファイル)を発表している。患者指導の参考にしたい。