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日本型タイプA

A型行動パターンの日本人はうつ病になりやすい

 「A型行動パターン」とは、1959年に米国の循環器病学者であるフリードマンとローゼンマンらが指摘した、虚血性心疾患と密接な関係がある行動パターンの様式をいう(血液型とは関係ない)。

 A型行動パターンは、仕事中も余暇の時も競争心が強く、いつも時間に追われている感じがあり、絶えず物事を達成したいという意欲を持っているような人によく見られる。具体的な行動特性としては、次のようなものが挙げられる。


■A型行動パターンの人はこんな人…
・言葉が早口で、語気も荒く、家族や部下にも当たり散らすことが多い。
・食事のスピードが早く、食後ものんびりすることが少ない。
・相手の話し方が遅いときや、前を走る車が遅いときなどイライラしやすい。
・同時にふたつ以上のことを並行してやることが多い。
・時間に追われている感じが強い。
・自分や他人の行動力を「質」より「量」で評価することが多い。
・貧乏ゆすりなどの落ち着かない癖がある
・朝早くから夜遅くまで、または休日でも仕事をすることが多い。
・責任感が強いと他人からよく言われる。
 ただし、このA型行動パターンは、あくまでも「行動パターン」であるため、社会環境、文化、国民性などによって修飾される可能性が大きく、そうした視点に立った比較文化的研究も行われている。

 それによると、米国人を対象としたA型行動パターンの因子分析では、

  (1)攻撃性・競争心が強い
  (2)仕事熱心
  (3)短気

が主要三因子として抽出されるのに対して、ハワイ在住の日系人では、米国人の(1)と(3)が一因子に集約された上で、「勤勉さ」が加わり、

  (1)攻撃性・短気
  (2)仕事熱心
  (3)勤勉さ

となる。これが日本人では、さらに(2)と(3)が集約されて、「仕事中心」が加わる。

  (1)攻撃性・短気
  (2)勤勉さ
  (3)仕事中心

 同じA型行動パターンで、このような違いが生じるのは、米国人は個人主義に裏付けられた業績達成志向が強いのに対し、日本人は、個人の業績達成よりも「会社のために」一生懸命仕事をすることをアイデンティティとしていた社員が多かったためだろうと考えられる(日系ハワイ人はその中間)。

 このA型行動パターンは、元々は虚血性心疾患になりやすい人の行動パターンとして抽出されたのだが、その後、「A型行動パターンの日本人は、うつ病にもなりやすい傾向がある」とする研究結果も報告されている。この傾向は日本人だけで、個人の業績達成が中心となる米国人のA型行動パターンでは、うつ病との関連性は認められてない。

 もっとも、これは1980年代の研究であり、日本でも2000年ごろから成果主義が導入されて、会社のために滅私奉公する人は減少している。現在では、日本のA型行動パターンも米国に近づいて、うつ病との相関性が薄くなっているかもしれない。

 いずれにせよ、“昔"の日本人のように滅私奉公で仕事をするA型行動パターンの人は、うつ病に陥りやすいということになる。自分が、このタイプに該当しそうなら、積極的に気分をリフレッシュし、仕事中心の生活から抜け出すことを心がけるようにした方がよいだろう。


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ストレス→うつの兆しを見逃さない

ストレス→うつの兆しを見逃さない

 ストレスを受けると、脳や身体各部に様々な影響が出てくる。しかし、これらの変化の多くは目に見えないため、周囲の人間には分からないし、自分自身も認知できていないことが少なくない。

 そこで今回は、自分のストレス状態を自分自身が認知するために、またストレス状態にある職場の同僚に気付くことができるように、ストレスをいくつかの段階に分け、各段階で起こる「外側から見える」変化について説明していく。

図1 ストレス→うつの段階

(1)「過剰適応」段階
 最も軽症のストレス状態では、すぐに元気がなくなるのではなく、むしろ元気な感じになる。何かストレスがあっても、普通以上にきちんと適応できているかのように見える。この状態を「過剰適応」と呼ぶ。この時点では、本人はストレッサーに曝されていることに全く気付いていないことが多い。

 過剰適応が問題なのは、本人が無理をして適応しているため、いつかは適応のためのエネルギーが枯渇して、ストレス状態が次の段階に進んでしまったり、身体的な病気(心身症)になったりする可能性が高いからである。

 過剰適応は色々なきっかけで生ずるが、例えば、仕事を始めたばかりの研修医や、異動したり勤務地が変更になったばかりの医師によく見られる。具体的には、新しい環境に早く慣れようとして、遅くまで仕事をしたり、ミーティングなどでも積極的に発言するなどの行動が観察される。

 もっとも、この過剰適応は、真面目な医師が「新しい職場で頑張ろう」という気持ちが強いときに表れる行動パターンであり、適応のためには、むしろ必要な段階であるとも言える。

(2)「神経過敏」段階
 過剰適応の段階を過ぎると、精神的に過敏になり、イライラしたり、怒りっぽくなったりする。見た目にも疲れが見え始め、タバコの本数が増えたり、些細な刺激にも過敏に反応したりする。同僚と口論やけんかをしてしまったり、後輩をいじめたり、上司に対しても口答えするようになり、さらに悪くなると、看護師に当たり散らしたり、患者や患者家族とのトラブルに発展する場合もある。これが神経過敏の段階である。

 神経過敏は、私生活にも影を落とす。自分の家族や恋人、友人とも、ちょっとしたことでけんかしてしまうことが多くなってくる。

 この時期の、もう一つの客観的指標は「酒の飲み方」である。しばしば見受けるのは、酒を飲みながら職場や仕事について愚痴ってみたり、上司や同僚の悪口を言っている場面である。また、一緒に飲んでいる同僚や友人にからんだり、喧嘩をしてしまったりもすることもある。「最近、悪酔いしやすくなった」という人は要注意である。

(3)「無関心」段階
 さらに悪化すると、いよいよ周囲に対して関心がなくなる段階に入っていく。それまで一生懸命がんばってきたのとは正反対の状態で、仕事への積極性もなくなってしまう。さらに、積極性や生き生きした感じが失われるだけでなく、仕事中も「うわの空」のように見えるようになる。その結果、つまらぬミスをしてしまい、それが大きな医療ミスの原因になる場合もある。そのことについて、上司から注意されたり、叱られても、特別に罪悪感を感ずることもなくなってしまう。

 しかし、無関心だからといっても、これは「抑うつ的」とは違う。抑うつ状態のように、悲しいわけでも、憂うつなわけでもなく、心身が消耗した感じで「何も感じない」状態なのである。

 この無関心段階では、休憩時間や自宅に戻ってからも、何かを積極的にすることはない。その代わりに、雑誌やネットで「求人広告欄」をボンヤリ眺めていたりする。とはいえ、この段階の人は、現在の仕事をやめて新しい職場を積極的に探しているわけでない。そんなエネルギーは、もうこの段階ではなくなっているのである。「ただ、なんとなく」というのが、この段階には一番ピッタリくる表現である。

(4)「引きこもり」段階
 無関心段階を過ぎると、さらに周囲との接触を避けるようになる。具体的には、遅刻が多くなってくる。また、「神経過敏」の段階のように、外で同僚や友人と酒を飲んでウサ晴らしをするわけではなく、家で独りで飲酒するようになり、その結果、二日酔いの状態で出勤することも少なくない。医師の6人に1人はアルコール性肝障害と言われるが、このような段階に達している医師が多いのかもしれない。

(5)「抑うつ」段階
 引きこもりを超えると、次は「抑うつ」段階である。この段階では、憂うつ、寂しい、悲しい、つまらない、といった抑うつ気分を本人もはっきりと自覚し、言葉にすることもできる。また「集中力がない」とか「頭が働かない」というような精神機能の低下や、「忘れっぽくなった」という知的機能の低下も見られるようになってくる。

 さらに「何も手につかない」とか「何をするのもおっくうだ」といった具合に、運動性の抑制も見られるようになる。これらの症状が、朝や午前中に特にひどいという、「日内変動」も見られることがある。このように、この時期には、いわゆる「うつ病」の患者と全く同じ症状が認められるようになる。

 この「抑うつ」段階も、精神症状を自覚できれば、評価や診断はそれほど難しいことではないが、精神症状がほとんどないこともある。例えば、不眠、食欲不振、体重減少といった身体症状だけしか認められない場合である。身体症状は、頭重感、頭痛、肩凝り、腰痛といった症状のこともあるし、下痢や便秘ということもある。このように、抑うつ感がないか、あってもごく軽度で、その代わりに身体症状だけが目立つうつ病を「仮面うつ病」という。

(6)「行動化」段階
 この「抑うつ」段階が続くと、最終的には様々な「行動化」が見られるようになる。誰でも色々な感情や欲望を持ち合わせているが、それが行動という形で発散されてしまう場合を、心理学や精神医学では「行動化」と呼んでいる。外からは、衝動的で未熟と評価され、時に危険でもある。
 具体的な行動化としては、例えば、無断欠勤もそうだし、何の将来的な展望もないのに、いきなり「退職願い」を提出すような衝動的な転職も行動化である。また、アルコール依存や薬物依存(これらは精神医学的には物質依存としてまとめられることもある)も行動化の表現型の一つであるし、さらにそれが極端になったのが自殺である。



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うつ病と「悲哀の仕事」の関係 「喪失体験」「対象喪失」

うつ病と「悲哀の仕事」の関係を理解する

 今回は、うつ病になりやすい性格(うつ病の病前性格)を紹介しながら、うつ病を発症するきっかけについて説明していきたい。

 うつ病になりやすい性格としては、次の2つが有名である。


■メランコリー親和型性格
 ドイツの精神科医テレンバッハが指摘したもの。ルールや秩序への志向性が強く、仕事上では責任感が強く、周囲から期待される性格である。対人関係も、「相手がいて自分がいる」という考え方で接する。いわば「いい人」であり、友人も多く、職場でも信頼される。

■執着気質
 わが国の精神科医である下田光造が指摘したもので、熱中性、執着性、徹底性、律儀、強い責任感などが特徴である。いわば「真面目な人」であり、職場では絶対的に信頼されて、仕事を任されることが多い。

 メランコリー親和型性格の人は、連続性や一貫性を大切にする。他人を大事にしながら、与えられた課題を完全に達成する「責任感が強い性格」である。こうした性格の人にとっての危機は、その連続性がとぎれることであり、一貫性がなくなる時である。これがいわゆる「喪失体験」であり、心理学的には「対象喪失」と呼ばれる。メランコリー親和型性格の人は、対象喪失をきっかけにうつ病を発症しやすい。

 対象喪失には、大まかにいうと、次の3種類がある。

 1つめは「もの」を失うことである。財布を落としたり、大切にしていた物を盗まれたりするなど、物理的・外的な「もの」だけでなく、心理的・内的な「もの」をなくすこともこれに含まれる。例えば、死別や失恋はもちろんのこと、けんかをして友情関係を失ったり、子供が成人して家を出ていったり、娘が嫁いでいくことなどである。

 2つめは、自己と一体化していた環境・地位・役割を失うことである。具体的には、住み慣れた家からの転居や故郷からの別れ、定年退職、転勤、卒業、転校などである。病気やけがによって、それまでの社会の中での役職や、家庭内での役割を失うことも、これに含まれる。

 3つめは、自分自身の機能や体の一部を失う場合である。けがをしたり、手術などで身体の一部やその機能を失ったりすることはもちろんだが、心筋梗塞などの病気に罹患して、仕事上や日常生活の制約を受けたり、性欲や野心などを失ったりする場合も含まれる。

 こうした対象喪失は、当然のことながら、そうそう簡単に忘れることはできず、長い時間をかけて様々な心理状態をくり返しながら、対象喪失を知的に理解しつつ、失った対象を情緒的にも断念していくという過程を経る。さまざまな情緒状態や防衛機制をくり返す、こうした一連の心理過程のことを「悲哀の仕事」と呼ぶ。「対象喪失」に続く「悲哀の仕事」を理解しておくことは、うつ病の発生過程を理解するのに非常に有益である。

否認、現実検討、怒り、躁的防衛、自責…
 「悲哀の仕事」の最初は「否認」である。これは、現実に起こっていることを無意識的に認めまいとする防衛機制であり、対象を失ったということを認めまいとする心理機制である。具体的には、「まさか」「そんな馬鹿なことはない」「何かの間違いだ」などと表現されることが多い。「否認」という心理機制は、次の段階である「現実検討」と交錯しながら進んでいく。現実検討がなされた時点から、真の「悲哀の仕事」が始まることになる。

 悲哀の仕事の経過中には、様々な心理・情緒状態や心理的防衛機制が混在して見られる。例えば、一時的にせよ、失った対象に対する「執着」が高じると、「ああ、オレも昔は○○だったんだなあ」と、失った対象への「理想化」が始まる。一方で、「なぜ自分だけが、こんなにつらい目に遭わなければいけないんだ」という「怒り」の感情も現われてくる。

 怒りを、より身近な例で説明するとすれば、医局のチームでやってきた仕事が失敗したという対象喪失に際して、「あんなに頑張ってやってきたのに教授に叱られるなんて。まったく同僚のAは何をしているんだ。言ってくれれば手伝ってやったのに…」とイライラしたり、「うまくいかなかったのは、元はといえば、部長が俺ばっかりに仕事を押しつけたからじゃないか」と憤ったりする。このような上司や同僚への「怒り」が、家族への八つ当たりになるとすれば、それは「置換」という防衛機制が働いていると考えることができる。

 一方で、特にメランコリー親和型性格の人は、相手を責めるばかりではなく、「悔やみ」や「自責」が見られるようにもなる。「なぜ、もっと自分自身がもっと頑張れなかったんだろう」とか、「自分さえもっと気をつけていれば、こんな失敗にはならなかったんだ」といった具合である。逆に、いつもよりも明るくふるまうケースもあるが、これは「躁的防衛」と呼ばれるもので、抑うつ的になることへの防衛機制であると理解できる。

 このような心理過程を経ながら、抑うつを克服して(抑うつを軽い程度にとどめて)、新しい状況に再適応していければ、うつ病に至らずに済むことになる。しかし、どんなに誤魔化そうとしても、どんなに忘れようとしても、「現実的な状況は少しも変化していない」「自分たちが大きな失敗をしたことはやはり事実なのだ」などと認識してしまうと、少しずつ「抑うつ」という最終的な段階に進んでしまうのである。

執着基質の人は「過労」が原因に
 一方、執着気質の人は、いったん仕事を始めたら、最後まで完璧に仕上げるようと精一杯の努力をする。そのため、上司も「あいつに任せておけば安心できる」という信頼感を寄せ、結果として、「仕事ができるやつ」「真面目な人」という評価が、上司からだけでなく、同僚や後輩からも得られるようになる。しかし、あまりに真面目すぎて、臨機応変に対応するとか、休むとか、気を抜くといった対応ができないという欠点がある。

 このような人がうつ病になるとしたら、それは過労がきっかけである。自分自身が過労状況であることに気付かずに、与えられた仕事を最後までやり通そうとするため、知らず知らずのうちに、抜け出すことができないほどの疲弊状況に陥ってしまうのである。






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青少年への抗うつ薬の効果は自殺リスクを上回る

青少年への抗うつ薬の効果は自殺リスクを上回る

27件の比較試験のメタ分析より

 青少年に対する抗うつ薬の効果は、自殺念慮/企図リスクを大きく上回ることが示された。米国Ohio州立大学のJeffrey A. Bridge氏らの報告で、詳細はJAMA誌2007年4月18日号に掲載された。
 FDAは2005年、4400人を超える青少年を対象とした24件の比較試験のメタ分析で、自殺完遂の報告はなかったが、自殺念慮または自殺企図が偽薬群の2倍(介入群4%、偽薬群2%)という結果を受けて、すべての抗うつ薬に対し、重大な副作用に対する表示上の枠囲み警告(boxed warning)を添付するよう求めている。

 著者らは、枠囲み警告により、青少年の患者が未治療の状況に置かれるリスクは決して小さくないと考え、抗うつ薬の利益とリスクを再度検証することにした。文献データベースなどで1988-2006年に報告された中から、19歳未満の患者に第2世代の抗うつ薬を投与し、リスクと利益についてプラセボ群と比較した試験研究を抽出した。そしてFDAの報告に含まれていた研究の中から20件と、それ以降に行われた新たな研究7件の計27件を選び、メタ分析を実施した。

 これら研究で用いられていた薬剤は、フルオキセチンパロキセチンセルトラリンシタロプラムエスシラロプラムフルボキサミンといった選択的セロトニン再吸収阻害薬SSRIs)と、ネファゾドン (セロトニン2A受容体遮断薬)、ベンラファキシンセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬SNRI)、ミルタザピンノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬NaSSA)だ。

 対象疾患は、大うつ病(MDD)、強迫性障害(OCD)、OCD以外の不安障害の3つ。治療期間の中央値は、それぞれ8週間、11週間、11週間だった。

 分析の結果、MDDでは、条件を満たした13件の試験(2910人)について、プールした絶対奏効率は、介入群61%(95%信頼区間58%-63%)、プラセボ群50%(47-53%)。プールしたリスク差は11.0%(7.1-14.9%)、治療必要数(NNT)は10(7-15)となった。一方、プールした絶対自殺念慮/企図率は、介入群3%(2-4%)、プラセボ群2%(1-2%)で、プールしたリスク差は1%(-0.1-2%)。危害必要数(NNH)は112となった。

 OCDを対象とする6件の試験は、すべてSSRIを用いていた。分析対象となった被験者は705人。プールした奏功率は、SSRI群52%(46-57%)、プラセボ群32%(27-37%)で、リスク差は20%(13-27%)、NNTは6(4-8)だった。また、プールした自殺念慮/企図率は、SSRI群1%(0-2%)、プラセボ群0.3%(-0.3-1%)。プールしたリスク差は0.5%(-1-2%)、NNHは200。

 OCD以外の不安障害では、6件の研究の1136人の被験者が分析対象となった。プールした奏功率は、介入群69%(65-73%)、プラセボ群39%(35-43%)。プールしたリスク差は37%(23-52%)、NNTは3(2-5)。プールした自殺念慮/企図率は、介入群1%(0.2-2%)、プラセボ群0.2%(-0.2-0.5%)。プールしたリスク差は0.7%(-0.4-2%)で、NNHは143だった。

 以上のように、すべての研究で、プラセボ群に比べ介入群で自殺念慮/企図の頻度上昇が見られたが、適応症ごとに推算したリスク差には有意差はなかった。プラセボ薬に比べ抗うつ薬は、評価された3疾患に対して有効だった。効果は、OCD以外の不安障害で最も大きく、次がOCD、最も小さかったのがMDDだった。

 今回の分析では、FDAが報告したデータに比べ、自殺念慮/企図のリスク差が小さい結果が得られた。その理由として著者らは、FDAの報告は固定効果モデルを使用し手いたのに対し、今回はランダム効果モデルを用いたことにあること、今回は新しい7件の研究を含んでいることにあると考えている。そして「第2世代の抗うつ薬は、第1選択薬の一つとして、それぞれの疾患に対する効果の差を念頭に置きながら、注意深い監視を怠らずに使用することが望ましい」と著者らは述べている。治療の選択は、医師と患者、患者の家族との話し合いにより決定すべきで、今回得られたような情報は、リスクと利益に基づく判断を容易にするはずだ。

 原題は「Clinical Response and Risk for Reported Suicidal Ideation and Suicide Attempts in Pediatric Antidepressant」



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三環系・四環系抗うつ薬でも「攻撃性」に要注意

三環系・四環系抗うつ薬でも「攻撃性」に要注意

北村 正樹=慈恵医大病院薬剤部

 2009年8月末、厚生労働省が発刊した『医薬品・医療機器等安全性情報 No.260』に、「三環系、四環系抗うつ薬等と攻撃性について」が掲載され、改めて注意が喚起された。この三環系抗うつ薬および四環系抗うつ薬による「攻撃性」の発現に関しては、既に7月3日に厚労省が製薬会社に添付文書の改訂を指示し、各医薬品の添付文書も改訂済みであるが、『安全性情報』では、これまでの副作用症例などを含め、これまでの経緯が詳細に掲載されている。

 抗うつ薬による攻撃性等に関しては、まず、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)とセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)に関して、それぞれの医薬品の販売開始から今年3月末日までの副作用報告が調査された。具体的には、この期間の副作用報告のうち、ICH国際医薬品用語集(MedDRA)日本版にいう「敵意/攻撃性」等に該当するものを抽出した結果、傷害等の他害行為のあったもの(他害行為につながる可能性があったものを含む)が39件あることが判明。このうち4件については、「服薬との因果関係が否定できない」と評価された。

 これら副作用報告の多くで、躁うつ病、統合失調症患者のうつ症状、アルコール依存症、パーソナリティー障害といった状況が併存していたことから、厚労省は5月8日、製薬会社に対して添付文書を改訂するように指示し、「脳の器質的障害または統合失調症の素因のある患者」「衝動性が高い併存障害を有する患者」などが新たに慎重投与の対象となった。

「トリプタノール錠25、同50」の添付文書(2009年7月改訂・第13版)より。下線部が今回の改訂箇所。

 一方、今回の『安全性情報』による注意喚起は、SSRIやSNRI以外の抗うつ薬に関するものである。SSRIとSNRI以外の13成分の抗うつ薬(三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬、トラゾドン塩酸塩、スルピリド)についても、SSRIやSNRIと同様に、今年5月15日までの副作用報告を対象として調査が実施された。その結果、傷害等の他害行為のあったもの(他害行為につながる可能性があったものを含む)が13件あることが判明した。また、このうち3件については、「服薬との因果関係が否定できない」と評価された。

 これらの副作用報告例も、SSRIやSNRIの場合と同じく、多くが、躁うつ病患者や統合失調症患者のうつ症状等の依存障害を有する状況で抗うつ薬を処方されたことにより、興奮、攻撃性、易刺激性等の症状を呈していた。こうしたことから、これらの抗うつ薬でも添付文書の改訂が必要と判断され、厚労省は7月3日、製薬会社に対して添付文書を改訂するように指示した。ただし、13成分中、スルピリドについては、副作用報告はあるが、併用されたSSRIによる影響が大きいと判断され、今回の添付文書改訂の対象とはなっていない。

 結果的に、この数カ月で、ほとんどすべての抗うつ薬に対し、攻撃性等の副作用に対する注意喚起が行われたことになる。既に抗うつ薬が投与されている患者や、これから投与される患者には、他害行為などの攻撃性に関する情報を含め、適切な情報提供が必要となろう。

 なお今年6月、日本うつ病学会の「抗うつ薬の適正使用に関する委員会」は、患者やその家族向けに『抗うつ薬の適切な使い方―うつ病患者様およびご家族へのメッセージ―』(pdfファイル)を発表している。患者指導の参考にしたい。



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