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医学の進歩と医療費

医学が進歩して、だれも病気にならなければ、
医者は仕事がなくなり、それが究極の姿だ。
いいことだ。

しかし現状では、医学の進歩に伴い、
知識は膨大になり、手順も複雑になっている。
ためしに、「ただの風邪」の場合、どのように対処すべきか、見てみよう。

*****
1-1:急性咽頭炎

【診断のポイント】
1)ウィルス感染が最多である(40%近く)
2)A群β溶連菌の場合、小児の咽頭炎の15から30%ほど。成人はもう少し頻度が低い
3)その他の病原体の場合は、いずれも1%未満
4)A群β溶連菌を鑑別して治療するのがポイント!
 →発熱あり
 →圧痛伴う前頚部リンパ節腫脹あり
 →扁桃の白苔や浸出液があり
 →咳がない
 などの場合では、溶連菌感染の可能性は極めて高い(75%程度)
5)A群β溶連菌迅速テストの実施
 →感度は報告によってばらつくが、60から95%程度と低め(やり方によっては感度下がる)。特異度は90から95%程度と高い
 →陽性なら診断つくが、陰性でも否定はできない
6)鑑別がつけにくい、迅速検査が使えない時は咽頭培養を提出すること
 →A群β溶連菌陽性であれば治療する。治療開始は培養結果判明後で良い
7)それ以外は原則として対症療法でフォロー可能
 →「とりあえず」抗菌薬を出すという態度は間違い!
8)扁桃周囲膿瘍などの合併症があれば抗菌薬治療の適応!(次項を参照する)
9)重要な鑑別診断としては伝染性単核球症がある
 →系統的リンパ節腫大の有無や、肝脾腫の有無も見ておく必要あり

その他:かぜ症候群だと思ったら原則は対症療法! 「とりえあず抗菌薬」は間違い!

【起炎菌について】
・呼吸器ウイルスが最多(40%近く)
・A群β溶連菌は15から30%(成人ではもっと低い)
・その他の病原体は、いずれも1%未満
 HSV、CMV、EBV、HIV
 Group C, G streptococcus
 Neisseria
 Mycoplasma
 Chlamydia pneumoniae

【治療方法について】
1)A群β溶連菌感染の場合
 →Penicillin G 内服1回40万単位、1日4回1内服、10日間

2)ペニシリンアレルギーの場合、代替として
 →(a)Clarithromycin 1回200mg、1日2回内服、10日間
 →(b)Clindamycin 1回150mg、1日4回内服、10日間
 →(c)Levofloxacin(成人の場合)
((a)、(b)に耐性がある場合があり、状況によっては(c)も考慮すべき。自施設、地域での感受性パターンに留意すること)

【ある見解】
かぜ症候群に対して、抗菌薬は意味がある?

●「抗菌薬を使う方が症状が早く取れる」という主張
 →多くの研究やメタアナリシスでは有意差はない
●「抗菌薬を使うと、副鼻腔炎や肺炎、中耳炎などの合併症が少ない」という主張
 →これも、多くの研究やメタアナリシスでは有意差はない
結論として、一律の使用には全く意味がない。むしろ、耐性菌を惹起するだけ!!

【別の見解】
●本手引きでは、歴史的な知見から、基本的にペニシリン系抗菌薬を治療の第1選択薬としている。
 →だが近年、セファロスポリン系抗菌薬を用いる考え方もある。ペニシリン系抗菌薬よりも短期間の治療で効果が得られるという。これに対し、特に市中においてペニシリン低感受性菌などの耐性菌の蔓延を防ぐという観点から反対の意見もある。

そして
1-2扁桃周囲炎、1-3扁桃周囲膿瘍、1-4咽頭周囲感染について注意しなければならない。
その手順として、それぞれがあるから、この3倍はある。

また、肺炎初期について高齢者では特に注意が必要で、
2-1:市中肺炎の初期治療

【診断のポイント】
治療開始前に喀痰、気管内吸引物を必ず培養に提出すること!!
1)重症度の判断はPSIやCURB65などのスコアリングシステムを用いる
 →CRPやWBCだけ見て重症度を判断するのは間違い!
2)原則として、まずは喀痰のグラム染色を行う
3)血液培養を2セット、必ず採取する
4)喀痰グラム染色で起炎菌が推定できる場合は、各々の菌ごとの第1選択薬を使用する
5)推定不能な場合、病歴および臨床所見から、【起炎菌と初期治療】の欄に記述する起炎菌のいずれであるかの鑑別を行い、抗菌薬を選択する。非定型肺炎の診断には、日本呼吸器学会の「成人市中肺炎ガイドライン」を参照すると良い
6)細菌性肺炎および非定型肺炎の鑑別が難しい場合には、細菌性肺炎(誤嚥性肺炎)と非定型肺炎の治療を併用する
7)起炎菌が判明したら抗菌薬のDe-escalationを積極的に行う。すなわちBroad spectrumからNarrow spectrumの薬剤へ変更を行う

【注意】
「初期治療は単剤がよいか、併用がよいか?」という問いに対して、本手引きでは「臨床情報から細菌性肺炎・非定型肺炎の区別が可能であれば、併用の必要はない」という立場をとる。ただし、重症例はこの限りではない

この理由は、以下の2つの知見による
1)「病歴・身体所見およびグラム染色・尿中抗原検査を用いて抗菌薬を選んだ群と、1993年ATSガイドラインに基づいて治療を行った群では、治療成績に差がなかった」(Thorax. 2005 Aug;60(8):672-8.)
2)市中肺炎治療において、経験的に非定型肺炎のカバーを行うことは、生存率や臨床的治療効果に影響を及ぼさなかった」(Arch Intern Med. 2005 Sep 26;165(17):1992-2000.)

【起炎菌と初期治療】
1)細菌性肺炎
 ●起炎菌
 Streptococcus pneumoniae
 H.influenzae
 Moraxella cararrhalis
 Klebsiella pneumoniae
 Staphylococcus aureus (インフルエンザ・RSウィルス罹患後)

 ●初期治療
 ・エンピリックには、Ampicillin/sulbactam 1回1.5g、6時間毎静注
 ・グラム染色で肺炎球菌間違いなしの場合(良い喀痰が採取でき、間違いないと確信した場合)、
  →Penicillin Gを1回200万単位、4時間毎静注 もしくは
  →Ampicillin 1回2g、6時間毎静注

2)非定型肺炎
 ●起炎菌
 Mycoplasma pneumoniae
 Chlamydia pneumoniae
 Legionella pneumophila
 Chlamydia psittaci (鳥を飼っている)

 ●初期治療
 Erythromycin 1回500mg、8時間毎静注
 Minocycline 1回100mg、12時間毎静注

3)誤嚥性肺炎
 ●起炎菌
 Peptostreptococcus
 Fusobacterium
 Bacteroides

 ●初期治療
 Ampicillin 1回2g、6時間毎静注
 Ampicillin/sulbactam 1回1.5g、6時間毎静注
 Clindamycin 1回600mg、8時間毎静注

【CURB65 スコアリングシステム】
肺炎の重症度を見積もる、スコアリングシステム。見るべきものはCRPではないのは、以下より明らか。BUN 7mmol/Lは、概算でBUN 20mg/dl。

*****
どうですか?外来の混み合っている中で、これだけの判断をてきぱきこなすわけです。
かなり、無理でしょう?
お医者さんはみんな優秀ですが、それでも、疲れるのも、理解していただけるかと思います。
「ちょっとのどが痛くて」というだけで、これだけのことを判断するわけですから。

現場では、ひっきりなしに新薬が現れ、おまけにジェネリック薬が使われ、
名前も紛らわしく、薬剤部は確認に手間取り、といった問題も実際にある。
深夜当直で、「風邪っぽいんです」と患者さんが来たら、1-1、1-2、1-3、2-1、これだけのことをこなし、
紛らわしい薬剤名を間違わないで出さなければならない。これを3分でするのが楽ですか?

医療費がかかるのは当たり前だ。

さらにこの上に、病気に関しての独自の見解を医師に対して主張する人もいて、その説得と教育もしなければならない。
これだけの知識を基本として共有して、その上での議論ならば有益なのだが。

横浜に行きたいのに、中央線に乗って、中野駅で総武線に乗り換えるのかとか、
議論を挑まれても、見当違いで、なんともどうしようもないのだった。
そんなとき、リエゾンと称して、精神科医が呼ばれるのだった。
ああ。



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