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経済学の基本原理 インセンティブ

”不老不死の霊薬が根も葉もないものだったように、我々エコノミストも、経済学の基本原理に反する処方箋をあまりにしばしば主張しすぎたのではないだろうか。問題は、経済学が失敗したのではなく、実際の政策に経済学の基本原理を適用するやり方を間違ったのだ。
経済学の基本原理とはなんだろうか。むかしから言われているように、「人間はそうすることが経済的に見合うことはするし、見合わないことはしない。」のだ。
スティーブン ランズバーグは「ランチタイムの経済学」という素晴らしい本の中で、経済学の基本原理を「人はインセンティブに反応する。それ以外は付随的な注釈に過ぎない」と喝破している。”

おそらくバーンスタインの本で主張されている発展の4条件(私的所有権と法の支配、通信交通、資本市場、科学的合理主義)の方が、よりまとまった発展概念を集約していると思うが、インセンティブとは、私的所有権が社会制度として確立された条件で初めて反応するに足るものになるということで、インセンティブに先立つ前提条件=深層構造といえるかもしれない。

「教育は成果をもたらしたのか」という4章では、「過去40年間の教育拡大の効果は期待はずれの結果に終わった。」とし、これ自体は、成長へのインセンティブを生まないと結論している。
#実際、アフリカの残虐な独裁国家の独裁者は、アメリカの大学に留学した教育レベルの高い人間だったりするわけだ。
「遅まきながら、成長へのインセンティブが欠けているために、機械や教育が増えても経済成長が起こらないのだと気づき、国際社会は別の考えをとるようになった。機械や学校を節約するために人口増加を抑制するべきだというのである。」

そして「コンドームへの資金援助は必要か」という5章で、これはマルサスの人口論を元にした人口抑制モデルによっているが、マルサスモデルのいう人口増加が豊かさの抑制要因になっているという説は間違っていることをデータで実証した上で、さらに、なぜコンドームを配ってもそれが利用されないかは、単純に貧しい国では、子供を沢山欲しいと思っているからだとデータで喝破している。
またエイズのような、10~20年後に死ぬかもしれないリスクを恐れるのは、平均寿命の短い国では馬鹿らしいことなのだろう。

こういった50年以上にわたる、国連を中心とした先進国の経済学者による膨大な税金を使った壮大な実験によってわかったことは、経済発展を計画することは無駄だと言う自明の結論でしかない。

さらに、私が根本的な疑問として思うのは、イースタリーの議論自体が、前提として、貧しい国と豊かな国という分類をした上で、貧しい”国”を豊かにするにはどうすればいいかという問題の立て方をしている点にある。なお、これは「豊かさの誕生」でも思ったことだ。
”国”という国連が認めたNation State単位で”個人”の豊かさを問題にする必要があるとは思えない。

もし、私的所有権がないために、インセンティブに反応する意欲を欠くのであれば、有能な人間は、アメリカなどの先進国へ行って働くのが最も合理的だ。実際、インドの優秀な人間がアメリカで大成功をおさめ、その成功を今は故国にフィードバックしようと頑張っている。
腐敗した政府が支配する母国なるものに、”国民”となる個人をバインドさせる必要がない。

要するに、こういった貧しい国に生まれた貧しい人たちを、豊かにさせるうえで、Nation Stateという架空の単位での繁栄を目的におくこと自体が、根本的に間違っているだろうということだ。

むしろ、自由貿易と人材の自由の流入を先進国が積極的に推進することで、”出稼ぎ経済”を発展させることが現実的かつ結果的に最善の策だと思う。
そもそも経済発展の目的はあくまで個人であって、”国”といった架空の存在ではない。目的を履き違えてはいけない。
日本でも、昭和くらいまでは地方の人間が”国”もとを離れて、都会に出稼ぎに行った。日本の中での地域共同体も意識の上では国であり、国内の移動の自由と、1国内の自由貿易体制によって地方の”国”も潤っていったわけだ。
国という概念は、元来がその程度のものだ。

社会条件というのは地理条件や歴史条件とも結びついており、それを個人が変える事は絶対にできないが、移動の自由が保障されていれば、貧しい国の人間でも”合理的”に行動ができるのだ。

また今は、LCC(Low Cost Carrier)の登場で、国際移動に要するコストがすさまじいレベルで低下している第2の移動革命の時期だ。
インターネットの登場による通信革命により、通信コストは数十分の1になったが、飛行機などの航空運賃の価格破壊も既存の10分の1といった驚くべきレベルで進行している。これは国際レベルでの出稼ぎ経済を実現するインフラとなる。
#日本にはLCCはない。これも当然に規制のせいだ。

今、ドバイなどの国には周辺国の出稼ぎ労働者が集まっているが、これによって周辺国も潤っているのである。
ドバイが、自由貿易体制をとっているがゆえに、こういった労働者の移動も自由なわけだ。

今後も、国(nation state)単位での経済発展モデルを考えても、成功はしないだろう。
むしろハブとなる自由貿易体制の豊かな国を中心として、周辺国の出稼ぎ経済を発展させる方が正しいと思う。
そうなったとき国連の役割はなにもないと分かるはずだ。

 



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