浴衣の君はすすきのかんざし
そろそろ夏も近い頃
浴衣を作ってあげるというので
寸法を測ってもらったことがある
首筋のあたりからかかとの近くまで測ったりしていた
それを着て
ホタルを見たり
バーベキューをしたりする予定だった
蚊に刺されたらいやだなとか考えていた
でもどれも実現しなかった
そのあと思いのほか長く生きた
山手線で浴衣の人を見て
そんな遠い昔を思い出していた
一瞬東京タワーが見えている
あのとき
わたしはじゃんけんで負けたんだ
そのわたしがいま
山手線に乗って浴衣の人を見ている
じゃんけんをすれば誰かが負けるのだから
負ける時があるのは仕方がない
じゃんけんをしてしまったのが
愚かだったのか
ホタルになって
はかなく飛ぶのもまた良いことといまは思う
わたしは
もっともはかなく飛んでみる
*****
それは倒錯した思いである
じゃんけんをしないように
したら必ず勝つように
仕組む方法が世の中にはあるのだと
知らずに生きていた
いまわたしは思うのだが
そんな仕組みをやはり拒む
わたしらしくない
はかなく飛ぶことがわたしの人生だ