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小売業は人がすべてだと思う。

「教育する」って、何をどう教育するのか?
正しい知識の蓄積なしに、知恵は出てこない
大久保 恒夫 【プロフィール】
小売 成城石井 教育 OJT 職場内訓練 マネジメント 資格 レジ業務 eラーニング コミュニケーション
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 小売業を経営して、一番強く思うのは、人の成長なくして企業は成長しないということである。店舗を新規に出店すれば見かけ上の売り上げは増加していく。しかし、人が成長しなければ、売り場は乱れていく。人が成長しないのに出店数を増やし、店舗の管理レベルが落ちてお客様に喜ばれない売り場になり、業績が悪化していく小売業をたくさん見てきた。

 人が成長すればお客様に喜ばれる売り場になり、既存店の売り上げは増える。利益も拡大していく。そのうえで新規出店をしていくことにより、企業は成長していくことができるのである。

 小売業は人がすべてだと思う。人は変わる。同じ人がやる気になりモチベーションが上がると売り上げは伸びていく。お客様に喜ばれる店舗にしたいという気持ちになれば、行動が変わり、感じのいい店舗になり、固定客が増え、売り上げの増加につながる。作業効率も変わる。モチベーションが落ちれば作業効率は7掛けになったりする。逆にモチベーションが上がれば、3割効率が上がったりする。下がったのと上がったのでは、2倍くらいの差が出ることになる。

人は仕事の過程で成長していく

 人は成長する。努力すれば、今までできなかったことができるようになる。高い目標を持ち、努力してそれを達成するのは楽しいことである。充実感を得られる。人間にとって、自分が成長することほど嬉しいことはないと思う。教育できる環境を整え、従業員のやる気を引き出し、努力することにより成長させていくことが企業の成長につながる。

 車のエンジンで100馬力のエンジンはいつも100馬力の力が出るが、言い方を換えると100馬力以上の力は出ない。人はやる気になれば200馬力の能力を発揮することもあるし、逆に50馬力のこともある。成長すれば100馬力だった人が200馬力になることもある。成長し200馬力になった人がやる気になれば400馬力の力を発揮することも十分にあり得るのである。

 人は仕事をしていく中で成長していく。企業での人の成長の基本はOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング、職場内訓練)だと思う。仕事の中で勝ち方を教えていくことが大事である。

 こうすると売り上げが増える、利益が上がるという方法、勝ち方を指示をし、実行させて、成功体験を積ませることである。これにより、だんだん自分でできるようになっていく。

 最終的には自分で考え実行してほしい。だからといって指示もしないで自分でやらせるには無理がある。最初からうまくできる人はほとんどいない。自主的に行動できる人を教育し、育てるためにも、指示や命令をし、従わせて、成功体験を積み重ね、成長させることが必要である。

 成城石井では、全社の経営方針を明確にし、各部の方針を具体化し、その方針の中で現場へ指示を出し、実際に成果を上げることにより人が成長してきていることを実感している。

 また、標準を示し、それを基に自分で考え、修正していくことも有効である。最初から全部自分で考えるのは大変である。それぞれの現場の実態に対応すべきであるが、全部違うということはない。標準から20~30%修正すれば、対応できることが多いはずだ。そういう標準を示し、自分で考え行動しやすくすることも教育するうえでは重要である。

 知識の教育も必要である。知識の蓄積がないと、知恵も出てこない。詰め込みであっても、知識を教え込むことは大切である。自分で知恵を出してほしいが、「じゃあ、どんどん考えて知恵を出してください」と言っても、急に出てくるものではない。知識の蓄積があり、経験を積み重ねたうえで、いい知恵が出てくる。集合教育で知識を教育し、現場でそれを活用する方法を教えていきながら人は成長していくものなのである。

 教育の現場でおかしな実態もあるように感じる。小売業の教育で、損益計算書や貸借対照表の読み方を教えたりしている。そんな教育は現場で必要とされる能力とかなりずれている。広い意味であった方がいい知識であるが、優先順位は低いはずだ。評論家や学者を育てているわけではないのだから、現場の実際の業務に生かせ、高い成果が上がる教育をするべきだ。

 小売業の現場で一番重要な能力は、人を使う能力である。小売業はみんなで力を合わせて業務が成り立っている。自分だけでは何もできない。部下を使い、他部門と協力しながらお客様に喜ばれる店舗を作っていくのである。

 人を使うには、人の気持ちをつかみ、動かす能力が重要である。コミュニケーション能力が基本となる。コミュニケーション能力を高め、マネジメントレベルを上げていくことが売り場での実行レベルを上げ、お客様に喜ばれる売り場になっていき、売り上げや利益が伸びていくのである。

 資格試験もおかしな実態になっていることがある。仕事は能力のある人に集中しやすい。能力があり仕事ができる人ほど忙しい人になり、資格試験の勉強をする時間がなくなったりする。資格試験の内容が、実際の仕事に求められる能力とズレていたりすると、仕事に時間をとられている人は合格しないことになる。

 能力は高くて仕事は優秀だけど、資格試験に合格できないから昇進できない人がごろごろいたりする。仕事が暇で、資格試験用の勉強をする時間がたっぷりある人が資格試験に合格して昇進したりする。これはおかしなことである。教育の内容も、資格試験の内容も全面的に見直すべきである。

「考えぬいての失敗」は大きな成果

 仕事をしていきながら成長する時、一番勉強になるのは失敗した時である。ただ失敗すればいいというものでもない。考えないで実行し失敗しても成長することは少ない。いろいろ考えて、これが一番いいと思って実行した結果が失敗すると、いろいろ学ぶことが多い。どうしてうまく行かなかったかを検討し、また次の行動をとっていけばいい。うまく行ったらもっとやればいい。どこかでまた行き詰まるかもしれないけれども、それも勉強になる。

 とにかくいろいろ考え実行すべきである。成功すればよかったし、失敗したとしても勉強になったのだから大きな成果が上がったと言える。小売業は失敗しても、ケガは小さいことが多い。この商品をこうやって売れば売れるかなと思ったら、売り場で売り込んでみればいい。

 売れなければ仕入れをストップして、今ある在庫商品を値下げして処分すれば済む問題である。たいした損にはならない。それよりもその失敗を通してその人が成長すれば大きな成果である。短期的には損が出ても、長期的に見れば成果の方がはるかに大きい。

 私は多く失敗した人の方が優秀だと思う。何もしなければ失敗はしない。いろいろやれば失敗も出てくるが、それで成長すればいいのである。

 成城石井では「失敗してもいいから、いろいろ考えどんどん実行しろ」と指示を出している。現場で実行し経験を積み重ねることが教育であると考えている。挑戦しないで失敗しなければ成長もない。挑戦すれば、失敗もあるが、成長できる。

 いろいろ挑戦している人は経験が豊富になる。問題に対して対応策を考える時の引き出しの数が多くなる。今までの経験を基に、正しい答えが見つけやすくなる。既存の問題への対応もうまくできるようになってくるし、新しいことに挑戦しても成功する確率が高くなってくるのである。仕事をしていく中で失敗を許容し、どんどん実行することを推進していくことが、成長につながり、教育しているということになる。

 現場の教育で一番重要なのはマネジメント教育だと考えている。小売業の場合、奇手奇策はなく、当たり前のことがきちんと実行され、継続されることが重要である。どんな手を打つかより、実行することの方が重要度が高い。

 上司が考えていることを部下が実行する割合が高いことがマネジメントレベルが高いということである。マネジメントレベルを上げるにはコミュニケーションが大切である。コミュニケーションは相手に主体がある。話を聞いた相手の気持ちが変わり、行動が変わって初めてコミュニケーションができたことになる。相手の気持ちをどう動し、行動に移るようにするかである。

 マネジメントとは指示を徹底させることであり、コミュニケーションすることである。コミュニケーションは人間と人間のお互いの関係の問題である。だから、マネジメントに正解はないと思っている。

 人間には個性がある。指示をする人にも個性がある。強く言う人もいれば、柔らかく言う人もいる。強く言えば指示が徹底できるわけではない。柔らかく言って指示の徹底がうまい人もいる。どちらがいいかでなく、その個性に合わせたマネジメントの方法があるということである。

 指示する相手も人間である。いろいろな人がいる。素直な人もいれば頑固な人もいる。頑固な人だからといって逃げていては仕事にならない。頑固な人にも心を伝え、実行してもらう方法はあるはずである。頑固な人ほど、気持ちが変わればいい仕事をしてくれることも多い。

 お互いの個性の中で、気持ちを動かし、実行してもらう方法は、いろいろやっていくしか分からない。いろいろやり、うまく行ったり、うまく行かなかったりしていく中で、だんだんコツがつかめてくるものである。

 成城石井では、集合教育で基本的なマネジメントの知識は教育して、各自が自分のアクションプランを作成し、店舗に戻って実行し、経験を積み重ねるようにしている。そしてまた集合教育でお互いに経験したことを話し合い、共有することにより知識を深め、またアクションプランを作成し、現場で実行していくようにしている。これが教育だと考えており、この繰り返しにより人の成長につながってきていると思っている。

商品知識を徹底的に鍛える

 商品知識の教育にも力を入れている。特に成城石井の重点商品であるワイン、チーズ、ハムソーセージの教育を強化している。これらの商品のeラーニング(ネットを使った遠隔教育)も実施している。今のeラーニングソフトはよくできていて、簡単に教材を作成することができる。プレゼンテーション資料なども活用できるし、動画での教材もファイルにして貼り付けて使うことができる。特に外注してプロに頼む必要もないから、ローコストで教材の作成が可能である。


成城石井のeラーニング風景。店舗のバックヤードでいつでもどこでも受講できる
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 eラーニングはIDとパスワードで利用するようにすれば、どこの誰が、どこの課程を何時から何時まで勉強したのかの記録が自動的に残っていく。理解度の確認テストを作成すれば、コンピューターが自動的に採点して、点数が保存される。誰がどの課程を勉強し、理解したのかが確認できるのである。

 成城石井では商品知識の集合教育にも力を入れている。今までだと、希望者だけが自主的に、就業時間後に集まって、社内の商品に詳しい人が教師になって商品知識教育をしていた。これでは全然不十分だと思った。

 今は、業務として、会社が受講者を指名し、業務時間中に、プロの教師に来ていただき教育をしている。ワインで言うと、アカデミー・デュ・ヴァンという世最大級のワインスクールの日本校の副校長の先生に来ていただき、1回2時間の課程を16回受けるという集合教育を実施している。1課程で6本のワインを試飲するから、トータルで100種類近いワインを試飲することになる。

 対象者もお酒売り場担当者や店長だけでなく、ほかの売り場担当者やレジ担当者も教育を受けている。お客様はどこの売り場かは確認できずに質問をされる。「担当者を呼んできます」ではご迷惑をおかけするので、できるだけ多くの社員がお答えできるようにしたいのである。

 1クールで40人受講でき、7クール目になっているので300人近い社員が受講したことになる。全社員にまで拡大していきたい。チーズもハムソーセージも同様の考え方で商品知識の教育を徹底している。

 成城石井では接客教育も強化している。お客様と会話のできるスーパーマーケットを目指している。人と人との触れ合いが少ない世の中になってきた。小売業こそ売り場での人と人の触れ合いを大切にするべきだと思う。商品知識があっても接客を感じよくするには、また別の能力が必要である。いかにお客様のニーズを聞き出すかが大切である。

 そのニーズに合わせて、いろいろ商品のことを説明していきたい。求められるようであればお薦めもしたい。こちらの都合で商品の説明をするような接客は、お客様は望んでいないはずだ。

 私が接客教育を現場で話をする時にお願いしているのは、商品を売り込まないように注意することである。念のために言うが、売り込むようにお願いしているのではない。お客様に喜んでいただくのが小売業の仕事であると思っている。接客をしてお客様に喜んでいただき、「このお店は感じがいいね」と思っていただければそれでいいのである。

 無理やり商品を売りつければ、目先の売り上げは増えるかもしれないが、感じが悪いと思われればもう来店されないので、その接客は大失敗である。売り込もうという気持ちがあれば、それは雰囲気で分かり、感じが悪い。雑談してもいい。お話をして感じがいいと思っていただくために接客をするのである。そのための教育をしている。

 接客教育を強化し、成果が上がってきた。全国のショッピングセンター、駅ビルなどで接客コンテストが行われている。ショッピングセンターには100店とか200店とか、テナントが出店していて、毎年接客コンテストでショッピングセンターの優秀者が3人とか5人とか選出される。その優秀者に選ばれるのもそう容易ではない。今まで成城石井は毎年2~3人が選ばれていたが、昨年度は12人が優秀者に選ばれた。人は成長するものである。教育を強化して、成長し成果が上がっている。

レジ業務はお会計だけではない

 成城石井では、レジ業務は補助業務ではなく主幹業務であると位置づけている。お客様に感じがいい店と思っていただくのが小売業の仕事である。だからお客様と接する機会の多いレジは主要業務である。

 レジでの応対により、お店の評価は大きく変わる。レジでは正確性やスピードも大切である。それは基本業務として大切にしながら、接客力の向上に力を入れている。レジ教育も大きな成果が上がっている。

 日本でのレジチェッカーに関する技能検定で最大なのが、社団法人日本セルフ・サービス協会の検定試験である。ここの1級は非常に難しくなかなか合格できない。日本中で現役の1級保持者は百数十名しかいない。現在、成城石井はフランチャイジーも含めて16人の1級保持者がいる。「非常に多い」と言われているが、私はまだ不十分だと思っている。

 そこでレジ教育を強化している。レジ担当者は業務として技能検定試験を受けさせている。目標は全員が1級に合格することである。高い目標を持って努力し、充実した人生を送ってほしい。達成感を味わってほしい。マルチジョブ化で社員全員がレジ業務ができるようにしたいので、売り場の人にも店長も技能検定試験を受けるよう指示を出している。

 成城石井の1級合格者は毎年2~3人である。レジ教育を強化した結果、昨年度は6人が合格した。2級に合格していないと1級が受けられないが、全国から1級に214人の受験者がいて、合格者は26人であった。そのうち成城石井が6人であった。ここでも教育により大きな成果が上げられたと思っている。

 教育し人が成長することによってでしか会社は成長しないと思っている。小売業は現場で働く1人ひとりの力の積み重ねによって業績は上がってくる。1人ひとりが成長することにより、会社は成長していく。

 成城石井が高額品が売れないという厳しい環境の中で業績がいいのは、人が成長したからである。教育を徹底的に強化してきた。桁外れに教育を強化していると思う。

 現場が良くなる教育、お客様に喜ばれるための教育を強化してきた。売り上げと利益が伸びているのは、それがお客様に認めていただけたからだと思う。今後も、引き続き教育を強化していきたい。










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