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記憶の島

うっかりなれなれしく話していると
あの時はそうじゃなかった
そんなに簡単に忘れる程度なのか
と言われて
たじろぎ

取り繕うために
人間の記憶は
海に沈んだ山脈のようなもので
昔のことはすべて確かに存在しているのだが
多くは海底に沈み
特に年をとると大半が海面よりも下になり
ところどころしか海上に出いてなくなり
しかも
出ているところも本当に意味があるというよりも何かの偶然で
意味もなく残ったものなのだと
解説を加え

こんなこと話しても意味のないことだ
こんなことを話すために今こうしているのではないと
と一瞬思い

しかし意味のないことだと思ったことは意味のあることだと思い直したりする

私の場合はもうすぐすべてが海面下に沈むのだと
やや重々しく伝え

そうするともう手の届かなくなる人との最後の別れのように
狂おしさをみせ

記憶はところどころしか想起できないとしても
すべてはひとつながりのものなのだ

いやしかし意味のないことだ
思ってみたところで思いが深まるものでもないのだから

夜景の中で飛行機がゆっくりと移動している

海に沈んだままのマンモスの化石とかあるんだよねー
というと
くすぐったい顔をする

手の加えられていない
薄い産毛

今ここに存在するのは二人の人間ではなく
ひとつの行為だけである
動詞だけが存在している

二つの心ではなく
強くひかれ合い深く融合する一つになった心である



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