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ADHDに関係する遺伝的な要因

 注意欠損/多動性障害(ADHD)には遺伝的な素因の存在が疑われて久しいが、原因遺伝子や疾病関連遺伝子は見付かっていない。英Cardiff 大学のNigel M Williams氏らは、患者群と対照群のゲノム全体から、large(500kb超)でrare(集団頻度が1%未満)なゲノムコピー数多型(copy number variants;CNVs=個体間でコピー数が異なる遺伝子領域。分節重複や欠失変異と呼ばれていたものをまとめてCNVsと称する)を同定、患者に有意に多く存在していることを明らかにした。ADHDに関係する遺伝的な要因を初めて示したこの論文は、Lancet誌電子版に2010年9月30日に掲載された。

 これまでに、自閉症や統合失調症、原因が明らかではない知的障害などの発達障害について、largeでrareなCNVsとの関係が報告されていた。そこで著者らは、ADHDとそうしたCNVsの関係を調べようと考えた。

 英国内90カ所の小児精神科と小児科の外来で01~09年に患者登録を実施。英国系白人の小児(5~17歳)で、ADHDまたは多動症と診断されているが、統合失調症、自閉症ではない子供たち410人を登録した。410人中35人は兄弟もADHD患者だった。

 対照群は、1958 British Birth Cohort(1958年のある1週間に生まれた1700人超の集団からなる)から選出。人種はマッチするが患者と血縁のない1156人(男性594人)を選んだ。

 すべての解析に必要なデータが得られた患者366人(平均年齢10.5歳、IQの平均が86)と対照群1047人に由来する標本を対象に全ゲノムCNV解析を行い、largeでrareなCNVsを同定した。

 CNVsは患者群から57個、対照群から78個見付かった。一人当たりの保有数は患者群で有意に多かった(0.156個と0.075個で、患者群では対照群の2.09倍、P=8.9×10-5)。男女間で保有数に差はなかった。

 一人当たりの保有数は、特に知的障害のあるADHD患者(IQが70未満、33人、IQの平均は60)で高かった(0.424個、対照群の5.69倍でP=2.0×10-6)。ただし、IQが70以上の患者でも対照群との差は有意だった(0.125個、対照群の1.68倍でP=0.0077)。

 知的障害ではないADHD患者12人の両親のDNAを調べたところ、患者に同定された15個のCNVsのうち、6個は母親から、5個は父親から受け継がれていた。4個のCNVsは患者にだけ存在していた。

 知的障害のないADHD患者に同定された40個のCNVsを、先に自閉症と関連付けられたCNVsと比較したところ、8個が重複していた。対照群に同定された78個についても同様の比較を行ったが、重複は1個だった(P=0.0095)。統合失調症と関連付けられたCNVsと重複していたのは40個中9個(P=0.010)。重複していたCNVsの多くが染色体の16p13.11の領域に存在していた(P=0.0008)。

 患者群に同定されたCNVsが知的障害と関連するのではなく、ADHDに関係していることを確かめるために、知的障害ではないADHD患者に限定して全ゲノム遺伝子座特異的分析を行ったところ、やはり16p13.11にlargeでrareなCNVsが有意に多いことが確認された(P=0.0008)。

 得られた結果は、アイスランド人のADHD患者825人とアイスランド人対照群3万5243人を対象とする分析でも確認された(P=0.031)。

 今回、ADHD患者でlargeでrareなCNVsの頻度が高まっていることが示されたことで、この病気の遺伝的な背景を探る道が開けたといえるだろう。

 原題は「Rare chromosomal deletions and duplications in attention-deficit hyperactivity disorder: a genome-wide analysis」、概要は、Lancet誌のWebサイトで閲覧できる。



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