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谷川俊太郎 4

小学生時代に私も少々ピアノを習わせられたことがある。先日久しぶりにぽつりぽつり叩いていたらその頃の思い出が、別に具体的なことは何も思い出さないのだが、ありありとよみがえったのにわれながら驚いてしまった。音楽は不思議な力を持っているものだ。それはわれわれの記憶の中に長い間深く眠っているのだが、ふと引き出されることがあると、まるで長年沈んでいた舟のように沢山の記憶の貝がらをくっつけて出てくる。私は小さな小学生にもどってしまう。そして漠然としたかつての幼いかなしみや喜びの中に身をひたす。それらは限りなくやさしく、そしてかなしい。時の重さのためにその深い表情をあらわにしている。プルウストにとってのマドレーヌ菓子のように、それは私にとって果てもなくなつかしい不思議なものなのだ。

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