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自他未分化 会社では服従 家族では心中

だいたい以下のような要旨の文章があった。世間向けには分かりやすいので売文として商売になると思う。
理屈をつけて異常だと言ってみたところで現実は現実だ
現実には理由がある

ーー
 「無理心中」を和英辞典で引くと「forced double suicide」という言葉にぶつかる。
直訳すると「強要を伴う複数の自殺」になる。

 「forced double suicide」というフレーズ自体、英語の日常会話の中に出て来る言葉ではない。
 無理心中は、わが国に独特の言葉で、そもそも英訳不能な概念である。

 概念だけではない。殺人後の自殺という事件の起こり方も、海外では、レアケースだ。
 無理心中において、実際に起こっている事態は、「殺人」と「自殺」の複合であるに過ぎない。
 ただ、わが国の伝統文化には、このワンセットの死を特別視するものの考え方が牢固として存在している。

 われわれは無理心中をただの自殺とは思っていない。ただの殺人だとも思っていない。
 殺人という大罪が、自殺という逸脱行動とひとつのパッケージにおさまることで、「悲劇」みたいなものに昇格する。

 無理心中などという特殊な用語を使わずに「家族を虐殺した後の自殺」というふうに、実態に沿った描写を採用すれば、これは、かなりとんでもない犯罪であることがはっきりする。

 無理心中はいまだに無理心中と呼ばれ、悲劇として描写され、同情的に報道されている。

 一人で死ぬことを潔しとせず、愛する者を殺してから死ぬ。
 世間はこれを「責任を取った」というふうに評価するのであろうか。

 たとえば、のっぴきならない事情で、死を選ぶ決意をした男なり女がいたとする。
 彼または彼女は、自分の子供を道連れにする。
 なぜか。
 自分が死んだ後に、孤児として生き残る我が子の境涯を哀れに思うからだ。

 ひとりぼっちで残すぐらいならいっそ一緒に……というこの感覚は、日本人でない国際社会の人々には、おそらく理解されない。
 理解されたのだとしても、積極的には評価されない。

「子供のイノチは親のモチモノなのデスカ?」
 と、おそらく西洋の人たちはそういうふうに考える。

「イノチはすべて、神から授かったものではないのデスカ?」

 と。
 当然だ。
 西洋とか神とかが常に正しいわけではもちろんない。
 そして、自殺で罪が償われるわけでもない。
 ただ、殺人を犯した自殺者を罰する適切な方法が発見されていないだけだ。

 が、うちの国では、無理心中は結局のところ、美化される。
 だから、判例でも、無理心中の失敗例に対しては、過大な情状酌量が設定される。そういうことになっている。

 法律の条文の中に「尊属」「卑属」の区別がなくても、実際の判例は、いまだに戦前の民法がその根拠としていた「家」制度の影響下にある。すなわち、儒教でいうところの長幼の序はいまだに生きており、日本人における「個」は、いまだに確定していない。そういう感じだ。

 ともあれ、無理心中に関しては、盛大にその情状が酌量される。これは動かしがたい。
 殺人を伴わない同時自殺、すなわち無理心中でない心中ということになると、これはもう、ほぼ無条件で同情される。

 男女が一緒に死ぬことに、専用の単語が用意されているということがまず異常だ。私はそう思う。

ーー
 昔の日本の「家」をイメージした経営理念には、「家族みたいに自他が未分化」で「家族のようにだらしなくもたれ合って」いるネガティブな側面があった。

 社内には、「お父さんの命令には黙って従うべきだ」式の抑圧がセットアップされ、「子供が理屈を言うものではない」的な圧政が渦巻いていたはずだ。私はそう思う。そういう、他人を他人として扱わない(つまり、年齢の若い社員を「子供扱い」にする)風潮があったからこそ、家族的経営は頓挫したのだ。

 実際、会社が社員の「面倒を見る」というフィクションの裏で、社員には「献身」と「服従」が期待されていた。無論、会議は「理屈を言うな」ぐらいな原則で動いており、下っ端が意見を言うことは、「生意気」ということで排除されていた。以心伝心。なんという息の詰まる同調圧力。

 さらに厄介なことに、家族経営の企業は、身内には優しくても、外部の人間に対しては、無関心かつ冷淡であり、時には冷酷でさえあった。身内大事の原則は、経営者の社会的責任に対する無感覚を招き、法令遵守の原則をさえ無視させていた。そして、「会社のために正しいことは全社員にとって正しいことだ」とする歪んだ倫理観は、職場を企業犯罪の温床にしてさえいた。ロッキード事件などの汚職事件をはじめとする、反社会的な企業活動の裏には、「黙ってついて行く」物言わぬ子分たちの存在があった。そういう側面もあったのである。



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