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ネットへの常時接続は社会と人間をどう変えるか

『ポップ・テック』会議:ネットへの常時接続は社会と人間をどう変えるか
 メーン州カムデン発――19日(米国時間)からの週末、ここニューイングランド地方の漁業を中心とする小さな町にテクノロジーの達人たちが集い、『カムデン・テクノロジー会議』が開催される。この会議には『それはわれわれの暮らしをどう変えるか』という副題がついている。
 副題にある「それ」とは、9月11日以来ずっとわれわれの日常会話やチャットルーム、トークショー、新聞の見出しを独占し、人生観まで一変させそうなあの出来事のことではない。「それ」が意味するのは、これから世界が――会議のタイトルを借りて言うなら――『オンラインはどこでも、いつでも』という方向に進むにつれて、会話やチャットルームなど人間どうしの多種多様なやりとりが変化し影響を受ける、そのありかたのことなのだ。
 今年で5回目になるカムデン・テクノロジー会議(別名『ポップ・テック』)は、ハイテク技術そのものが議題になることのない、いささか珍しい技術関連イベントだ。ここで検討されるのは、技術によって生ずる影響についてだけなのだ。
 「われわれは、人類の全知識にオンラインで瞬時にアクセスできる世界からそう遠くないところにいる」と語るのは、ポップ・テック会議の主催者の1人、アンソニー・シトラーノ議長だ。「自分で望まない限り接続を切らずにすむ世界が、そこまでやって来ている」
 通常、こういった近い将来の予測を巡る議論は、たとえばワールド・ワイド・ウェブ全体を、手の上からアクセス可能にするとか、眼鏡に投影できるようにするとか、世界をさまざまなものが群居する1つの集合体として扱う機器をめぐって進められる傾向が強い。しかしシトラーノ議長は、今週末の会議を、こういった機器が登場することで社会がどう変化するかについての、本格的話し合いにもっていきたいと考えている。
 「人間関係はどのように変化するのだろう? 人間の知性はどう変わるのだろう? 愛はどうなるのか? 人間としてわれわれが慈しんでいるものも変わってしまうのか? そういったさまざまなものとわれわれの関わりはどうなるのか?」とシトラーノ議長は問いかける。
 このような高尚な問題をテーマに掲げるのは、いささかおこがましく思えるかもしれない。こんな社会を現実のものとするような、全く新しい飛躍的進歩はまだ始まってもいない。せいぜいが、PDAや携帯電話、パーソナル・コンピューター、バーチャル・リアリティー装置など、今日すでに市場に出回っている機器の機能拡大や融合に手をつけた、というところだろう。
 だが、シトラーノ議長は、最も革命的な技術が何かを決める基準は、それがいかに目覚ましい科学的発展を遂げたかにあるとは限らないと述べる。
 「技術の飛躍的進歩と経済の飛躍的進歩が組み合わされてこそ、あらゆる進歩が可能になるのだ。コンピューターとインターネットがこれほどまでに普及した理由もそこにある」とシトラーノ議長。
 「真に成功した先端技術は、本当に便利で、存在に気づかないほどだ。ウェブはまだそこまでは達していない。ネットワークを使ったバーチャル・リアリティーとなると、まだまだほど遠い。だが、いいかい、ウェブやネットワークが電話なみに簡単でどこでも使えるものになったとき、社会の様相は大きく変わるはずだ」
 ポップ・テックの参加者の1人で『パソコンを隠せ、アナログ発想でいこう!』[邦訳新曜社刊]の著書、ノースウェスタン大学のドン・ノーマン教授(コンピューター科学)は、シトラーノ議長の考え方をさらに押し進めている。
 「科学技術を簡単にするのではない。見えなくさせるのだ。ちょうど、電動モーターが家庭から姿を消したように。もちろん、モーターは存在する――ざっと数えても50個くらいは身の回りにあるはずだ――だが、みんなモーターがあるかないかなど知らないし、気にもとめない。マイクロプロセッサーも同じような存在になろうとしはじめたところだ」
 ポップ・テックのプログラム責任者、ハービー・アードマン氏は、21日に『巣の精神』[多数が結びついたネットワーク上に集合的に現れる心]をテーマにした講演のための導入解説を行なうことになっているが、至るところに目に見えないデジタル・ネットワークが張り巡らされた未来については、理想郷という見方と否定的な捉え方の両面があると考えている。
 「支払わなければならない代償として最も顕著に現れるものは、プライバシーの問題だろう。単純に1人きりになるという意味さえ変化する」とアードマン氏。「この技術がいったん完全に花開けば、1人になることは難しくなる。連絡がつかないという状況がなくなるのだ。本気で他との接触を排したいと切望する人も出てくるだろう。しかし、接続を断つということは、世界全体の流れからまるきりはずれてしまうことを意味する」
 「技術というものはすべて、諸刃の剣だ。その技術が確立される前に生まれた人にとっては特にそうだ。私の祖母にとって、テレビは『あの機械』だった――侵入者だったのだ。コンピューターについても、いまだにこういう感情を抱いている人は多い」
 週末に行なわれるポップ・テックの会議には、テクノロジーに関する思想家、作家、活動家、ビジネス界の代表など、著名人500名が参加する予定。入場券はすでに完売している。参加者の顔ぶれは、メーン州のアンガス・キング知事、米アップルコンピュータ社の元最高経営責任者(CEO)ジョン・スカリー氏、インターネットの開拓者ボブ・メトカルフェ氏、米市民的自由連盟(ACLU)のナディン・ストロッセン会長らで、『人間関係とインターネット』、『インターネット時代における人権』、『脱組織化社会』などをテーマに論じる予定。
 会議初日だけで、これだけ盛りだくさんの内容だ。
 「ポップ・テックの使命は、通信やコンピューティングにおける技術革新が社会にどのような影響を与えるか、われわれの生活に何をもたらすか、ともに暮らす生き方の本質をどう変えていくかを、未来を見通して、あるいはせめて現時点を踏まえて、分析することにある」とアードマン氏は語る。



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