晩年にいたり、わたくしはもう一度だけ激しい恋の想いに出会ったのでございます
その後、晩年にいたり、わたくしはもう一度だけ激しい恋の想いに出会ったのでございます
わたくしはねじ曲がった情熱に出会い発見し再び自分を見出しました
その頃の私は仕事に没頭すれば全てを忘れ、仕事以外では何も自分を満足させることができない
他人から見てもそのことが当然であるくらいの仕事の成功を手に入れていました
華やかな世界で、申し上げてみれば、この世界の歪な仕組みの全てを知り抜いて、
得する部分だけを秘密会議に集めて女王として振る舞い
一時の全能感を満喫する
そのようにして日々が流れたのでございます
どの世界にも存在するものと思います
わたくしは自分が年老いることを否認しておりました
また自分が女性であることを武器にしていることも否認しておりました
私は自分が年老いても醜くなっても関係ないはずと決め、それを信じておりました。
女である事を利用したことは一度もない、たとえば男の方のペンネームで書いたとしても
正当に価値が認められるはず、そう考えておりました
実に現実は恐ろしいのもで、時間はわたくしにも例外なく真実を突きつけたのでございます。
わたくしは正しい方法論で正しいことを提出しておりましたので
当然ですが私の次の世代の人間が同じように正しいことを行えば
同じ結論が出るのでございます。
そのことが私の誇りですが、実は私の終りの宣言でもありました。
ほぼ同じことを言わせるならば、新しく有名になった人のほうが、企画として目新しいというのでございます。
そうでございましよう。
わたくし自身、そのように企画してきましたし、仕方ございません。
わたしは正しいと信じるものしか提出しませんので正解は一つです
そうであるなら、正しい情報を収集して正しく推論すれば、同じ結論になってしまいます
毎年結論が違うはずもありません
わたくしは過去の人になりつつあったのです。
わたくしは地位を維持するために操作したほうがよかったのかと
今になって思うことがございます。正直に申し上げて、それはございます
そしてしばらく考えた後は、これでよかったのだと思います
それそれの方が必死に生きている
それぞれに正しいと思っている
それでいいのです
わたくしはわたくしで正しいと思うものを提出したのですから悔いはないのです
そのような仕事の曲がり角でわたくしはあの方にめぐり合いました
それは若い頃の一度の深い恋とも違う
しかしわたくしの心身全てを巻き込む台風のような激しさのものでございました
あの方はねじ曲がった情熱
それをなぜ受け止めることができたのか
そのようなことができたのもわたくしが日々を自分なりの限界までの懸命さで生きていたからだと
思うこともございます
ぎりぎりまで生きていたからあの方に巡りあえたし愛を発見することもできたと思うのです
失うときに出会う恋と言えばいいのでしようか
仕事も若さも未来の希望も失うとき
わたくしはあの方に出会い大切なものを頂いた
多分私はその方にわたくしの本当のプライドをいただいた
これは錯覚なのかもしれないが、自分としては、それまでの平面的なプライドの外側にある、
立体的なプライドを発見したと思うのでございます
それは激しいい恋の想いであると同時に
穏やかな日々の過ぎ去りでした
大げさな身振りなど何も無いのです
ただ控えめな、むかしの日本人がそこにいるのです
わたくしはただ昔の日本女性でした。
そのような地点に立ち、なお自分自身でいられたし、むしろもっと自分らしくなったとさえ信じられた
その頃はいろいろなこともありました
裏切りもあったらしいのですが
敢えて知りたいとも思いませんでした
その人たちも必死に違いないのです
わたくしを裏切り傷つけるなら自分を守る必要がありますが
わたくしにも見えるだけで
単なる景色だとみなすこともできる
そしてわたくしは景色だとみなすことに致しました
そのような概念操作を学んだのもその方からでございます
時間が止まってくれればいいのにと切ない思いで考えたこともございます
頼りない自分を恨んだこともあるのですそして貪欲な自分をも悔やんだものでございます
人生は二回り目に入り
二回り目のはじめにはあの方がいて私を導いてくれた
しかしまたわたくしはわたくしであの方を誘惑した
いまとなっては事態の全体をどのように区切ることも正当ではないけれど
男女の間のことだけで言うならば
激しい恋と言って充分なことが起こったのでございました
いい年をして、しかしいい年だからこそ、意識的に工夫して、
ちょうど完成された詰将棋のように
ぴったりの手順で玉は詰み
激しさと穏やかさを一晩のうちに味わうことになる
風がそよぎ、水音が聞こえる
そのようにあの方は現れ、過ぎていったのでございました
2010-11-11 01:56
