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睡眠と躁うつの気分

睡眠と躁うつの気分は大いに関係があることが昔から分かっている

原因か結果かについてはよく分かっていない

生活上のショックなことがあって不眠になる例は多い
失恋で眠れない

また嬉しいことがあっても眠れなくなる
何かに合格して嬉しくて眠れない

二つの例とは逆に
何かの都合で断眠すると次の日の朝から少しハイになったりする
たとば当直あけのお医者さん

昔から断眠療法はあり、睡眠を短くする、あるいは徹夜すると、次の日はやや気分が持ち上がる
しかしずっと断眠出来るわけではないのでリバウンドのようにしてたくさん眠り
それとともにうつ気分になることが分かっている
リチウムを飲んで半分だけ寝る方法がある
しかし一人では難しいだろう

ある程度集団の設定があれば実行しやすい
寮とか入院とかそんな環境ならば設定できる

家族がコントロールするのは実際は困難で親子げんかになる

ラピッドサイクラーでは
うつに変化する直前のあたりに過眠傾向が、躁に変化する直前あたりに睡眠短縮が見られることがあり
前触れと見る見解もあるが
過眠そのものがうつを引き起こすのではないかとの見解もある
そうだとすれば
睡眠リズムを整えることが躁うつの波の予防になる

規則正しい睡眠と食事が本人にとって実際の利得があり
そのうえで躁うつの予防にもなっているようならば大変良い設定になる




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社会リズム療法(Social Rhythm Therapy)

社会リズム療法(Social Rhythm Therapy)をいかに洗練させてゆくか考えている

初歩的にはもちろん
睡眠と覚醒のリズム
食事と排泄のリズム
交感神経と副交感神経のリズム
緊張とリラックスのリズム
月経リズム
を眼目として
社会リズム記録(Social Rhythm Metic)を記録する

一日のうちで最初に人と会った時間、挨拶した時間、話をした時間なども書く
これは対人交流のリズムということになる

リズムを記録してゆくことは
リズムを正すことが目標なのだけれど
ではどうなったら正しいリズムであるのかは
人によって違うので一律には言えないところがある

簡単にいえばNHK的で小学生的な生活が健康なのだけれど
それぞれに事情というものもある

ーーー
概日リズム(サーカディアンリズム)が基本となるが
女性の場合のように月単位のリズムもあり
季節のリズムもある

学生なら試験にあわせたり
会社ならば決算にあわせたり
農業の人は農作物に合わせてのリズムがある
いろいろなリズムが発生する

そうしたリズムの複合体としての生体がある

周期の異なる正弦波を重ねあわせて、なお、大きな不整合が発生しないように
調整すること

抽象的に言えばそのようなことが治療の目標となる

ーーー
リズムは主にmanic cellが刻んでいるのだと思う
強迫性細胞は常に一定であるし
うつ細胞はすぐに活動を停止する

だいたい12時間で疲れて12時間で回復するマニーセルがサーカディアンリズムの主体になる

それぞれのマニックセルによってダウンまでの周期が異なる
だから複雑なリズムになる

かなり複雑なリズムならば一気に休止ということはなくなるのであるが
全体の整合性が高まると
つまり集中力が高まると
一気にダウンする確率も高くなる

ーーー
都会で働いている優秀な人達はだいたいが中学時代なんかは秀才で通した人だと思う
よく調べてみると体質としては躁鬱気質のところがあって
躁状態に近い時に勉強がとても良くはかどったはずだ

そうした人たちは
どちらかと言えば細胞の同調性が高いのでうつになる確率が高くなるわけだ

過度の同調性を和らげることはとてもいいことだと思う

波はより複雑なブレンドになるはずである

ーーー
そのように、人間の体に埋め込まれているいくつものリズムを想定しながら
それぞれを整えつつ治療をすすめる

太陽に当たることは大切な項目であり
出来れば午前中に散歩に出て陽の光を浴びてくださいとお願いしている

ーーー
メラトニンリズムも大切で
その点ではメラトニン系の薬を使うこともある

ーーー
血圧、血糖、脈拍、体温など簡単に一日のリズムを測定出来るものもある

女性は妊娠して出産準備に入ると何だか一段強くなる
そのひとつの要因は
産科に通って血圧、血糖、脈拍、体温などを指標として社会リズムを是正しているからではないかと考えている

母子手帳に書いてあるような細々としたことが役に立つ
うつ手帳も躁うつ手帳もそのようなものでありたい

ーーー
不眠症は最も端的にリズム障害を表現している

眠れたらいい時に、なぜか眠れない
眠ってはいけないときに、なぜか眠くなってしまう

ーーー
血縁のお年寄りの生活を見れば参考になると思う
何を食べているか
どのような生活習慣があるか
どのようなリズムで生きているか
血縁者は自分に類似のDNAを持って生きているのであるから
自分の場合にどのように生きたらうまくいくものなのか考える場合の参考になる

ーーー
異なる周期の波を重ね合わせて精妙に一定性を保つのが人体である
それを手助けするのが(私の言う)「社会リズム療法」である

複数の周期と振幅の異なる波の重ね合せの結果が生体であり
その最終的なリズムが成果とし人生に支障を来さないように
それぞれの波の成分を調整する

薬剤としては
リチウム、
バルプロ酸などてんかん系の薬
SSRIやSNRIなどのセロトニン、ノルアドレナリンの薬
ドパミン系の薬
などを調整するのであるが
調整の際にも生体内でのリズムを念頭において適切に調整する












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冷え症の診かたと方剤の選び方

冷え症の診かたと方剤の選び方
 冷え症は西洋医学にはない概念ですが、漢方では立派な疾患として考えられています。

 街を歩いていると、英語教室から講師らしき白人の方が、冬だというのに半袖で出てくるのを見かけることがあります。そうした姿を見ると、西洋医学に冷え症が存在しないのも無理はないと、妙に納得させられます。

 冷え症には、

(1)手足など末梢が冷えるタイプ(年齢に関係なく女性に多い)、

(2)胃腸の働きの低下を伴い、全身が冷えるタイプ(やせ型で小食の人に多い)、

(3)末梢のうち特に下肢が冷えるタイプ(高齢者に多く、やや男性が多い)、

(4)むくみを伴って冷えるタイプ(若い女性に多く、ぽっちゃりした色白の人に多い)

などがあります。冷え症で来院される患者さんの多くはこの4タイプに分類されますので、以下にその代表的な症例を示します。いずれも検査値などの西洋医学的な所見には問題がない症例で、漢方的所見のみを示します。

【症例1 手足だけ冷える】
 患者さんは28歳の女性です。○年1月、手足の冷えを主訴に来院しました。子供のころから、冬になると手にしもやけができる体質だったため、職場でも、エアコンによる冷え過ぎから身を守るため、服装やひざかけ毛布などを使っていました。

 ここ数年、冷えの自覚が徐々にひどくなり、特にこの年の冬には入浴の際、風呂場の床タイルの冷たさで足の裏が痛くなり、入浴に支障を来すようになったため、当科に来院しました。

 手足の冷え以外に、月経不順と排卵時の下腹部痛を自覚していますが、食事、便通、睡眠や、家庭・職場での人間関係には問題ありません。

 身体所見では、身長 158cm、体重 46kgの色白で中肉中背の方です。脈は弱く触れ、腹診ではお腹は軟らかい印象です(虚証)。全体的に皮膚の冷たさは感じませんでした(脾の寒証なし)が、手足を触れると氷のように冷たく感じます(寒証)。舌診では舌の辺縁に歯型(歯痕)を認めず、舌に浮腫(水毒)を認めませんでした。

 以上から、冷えのパターンとしては、四肢末端型の冷え症(寒証)と診断しました。そのため、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう:ツムラTJ-38)の適応と考え、この方剤を日量3パック(分3)で処方しました。

 この方剤は昔からしもやけの薬として使われてきたもので、特に手足の冷えの強い患者さんによく用いられます。長い名前で少し苦い方剤ですが、手足の冷えの強い患者さんに試してください。

 この患者さんの臨床経過ですが、治療開始2週間後の再診時には、なんとなく手足が暖かくなったということでしたので、さらに4週間継続しました。3回目の受診時には、お風呂場の床の冷たさが気にならなくなったと喜んでいたため、さらに6週間継続しました。

 4回目の受診時には、「今まで行くのが嫌だったスーパーの冷凍食品売り場に行ってもつらくないし、排卵時の下腹部痛もなくなりました」とのこと。思いがけない効果に患者さんと2人で喜び合いました。

 漢方をやっていてうれしく思うのは、このように患者さんが元気になって診察室を卒業していくことです。

【症例2 胃腸が弱く全身が冷える】
 患者さんは56歳の女性です。全身の冷えを主訴に、○年12月に来院しました。もともと小食で冷え症もあり、無理をして体調を崩すと下痢をしやすい体質だったようです。1カ月前ころから近所付き合いのいざこざがあって、ストレスがたまるようになり、ストレス解消に甘いものを食べ過ぎて体調を崩していました。1週間前から、電気毛布を使っても寒くて眠れなくなったため、当科を受診しました。主婦で夫と二人暮らしですが、特に持病はありません。

 身体所見は身長 152cm、体重 44kgとやせ型で皮下脂肪が少ない印象です(虚証)。体温は36.2℃とやや低体温。血圧は98/74 mmHgとやや低血圧気味。舌は白い苔があり(胃腸虚弱、脾虚)、歯痕を認めました(舌の浮腫、水毒)。腹診では特に下腹部の皮膚に触れると冷たく感じ(胃腸機能低下:恐らく胃下垂があるので、胃のあたりが冷えて機能が低下している、脾虚)、軽くお腹を叩くとチャポチャポと音がする(浸水音:胃の中に水分があるため、軽く腹壁を叩くと水が跳ねる音がする。水毒)。

 以上より、胃腸機能低下による冷え症と診断し、人参湯(にんじんとう、ツムラTJ-32)日量3パック(分3)を処方しました。

 人参湯は胃腸の働きの弱い、虚弱な人に用いる方剤です。「病気の親に飲ませるため、娘を売る」という話が付いてまわるほど、古くから高価でよく効く薬として珍重されてきました。

 摂取カロリーの約7割は基礎代謝として消費されますが、その熱量のほとんどは体温維持に用いられます。エネルギー源は食物として消化管から摂取されますので、胃腸の働きが悪いと、体温を維持するためのエネルギー源を十分に摂取・吸収できません。そのため、胃腸機能が低下している人は冷え症になりやすいと考えられます。

 胃腸機能の低下によって冷え症になっている人に人参湯を処方することで胃腸の働きを高め、エネルギー源としての食物をより多く体内に取り入れることことができます。それによって、体温を上昇させることが期待できます。

 漢方の考え方では、薬の処方だけでは十分な治療をしたとはいえません。食生活を含めた生活指導(養生)が必要です。漢方では、甘いものは胃腸を冷やすことで胃腸の機能を低下させ(脾虚)、消化管の水吸収能を低下させる(水毒)と考えられています。そのため、今回の症状出現の原因となったと思われる甘いものを食べることを禁止しました。

 臨床経過です。治療開始2週間後には、食欲が元に戻りました。しかし冷えはまだあり、電気毛布をかけても寒いと感じるほどひどい状態は改善しましたが、まだ電気毛布は使っているとのこと。治療の方向性は間違ってはいませんが、何かが足りないと考え、再度入念に診察してみました。

 その結果、舌の白い苔は消失していました(脾虚改善)が、若干歯痕が残っており(水毒)、腹診でも浸水音(水毒)が残っていました。そこで、水代謝を活発にし、新陳代謝を高めて冷えを改善させる真武湯(しんぶとう、ツムラTJ-30)を追加しました。

 体に余分な水分がある(水毒)と、いくら体が熱を産生して体温を上昇させようとしても、なかなか体温が上がりません。自動車エンジンが水でエンジンの過熱を防いでいるようなものです。そのため、冷えの患者さんの場合は余分な水分を排除しなければなりません。

 また、せっかく胃腸の働きを良くしてエネルギー源が吸収されるようになっても、細胞レベルで代謝が低下していては、熱は生まれません。そこで、細胞レベルでの新陳代謝を高めるためにも真武湯の追加が必要でした。

 このように2種類のエキス剤を同時に処方する場合、生薬の重複や同一生薬の量が過剰になる恐れがあるため、1日投与量を少なくし、日量として、人参湯2パックと真武湯2パックを分2で処方します。

 2週間後、3回目の来院時には症状は良くなったようで、診察上も体の余分な水分(水毒)が改善していました。さらに4週間分を同様に処方し、その後、4回目の診察を行ったところ、調子が良いので薬を飲み忘れることがあるということでしたので、患者さんと相談の上、終診としました。

 慢性疾患の場合、治療をやめるタイミングが難しいのですが、調子が良くなると患者さんは薬を飲み忘れるようになります。漢方の場合は、症状がなければ、患者さんの判断で徐々に薬の量や服薬の間隔を延ばしてもらい、最終的に中止するようにしています。

【症例3 高齢男性の冷え】
 患者さんは68歳の男性です。足の冷えを主訴に、○年2月に来院しました。特に既往歴はなく、2カ月前ころから、足が冷たくて困る、特に夜寝る時、靴下を2枚履き、さらに足元に湯たんぽを入れているが、全く足が温まらないので寝付けないと訴えています。足の冷え以外は全く問題ないとのこと。診察所見も、腹部診察で下腹部を指で押したときの抵抗感が減少している(小腹不仁)以外に特に問題ありませんでした。身長 172cm、体重 68kgと中肉中背です。

 この患者さんでは、加齢に伴う様々なホルモン作用の低下によって熱産生の低下や末梢循環不全が生じ、それによって足の冷えが生じている(腎虚)と考えました。その根拠は、男性高年齢者であることと、下腹部の筋力低下(小腹不仁)です。下腹部筋力低下は、男性ホルモンや成長ホルモンなどの低下による、骨盤周囲のインナーマッスルの筋萎縮と筋力低下が原因と考えられます。西洋医学的に考えれば、ホルモン補充療法を行うという発想になりますが、高価な上、前立腺癌リスク上昇などの心配もあります。

 そこで、このような患者さんによく処方する八味地黄丸(はちみじおうがん、ツムラTJ-7)を日量3パック(分3)で処方しました。八味地黄丸には山薬が構成生薬として入っていますが、山薬には男性ホルモン様活性のある物質が含まれていますので、漢方によるホルモン補充療法といった感じになります。

 臨床経過ですが、治療開始2週間後には、足が少し温かく感じるようになったとのこと。さらに4週間処方したところ、湯たんぽを使わなくて済むようになりました。さらに4週間処方したところ、靴下を履かなくても眠ることができ、掛け布団から足を出しても寝られるようになったとのこと。ただし、既に5月になっていたので気候の影響もあったかもしれません。その後、この患者さんは来院していませんので経過は分かりませんが、きっと元気なことでしょう。

 もしこの患者さんに足のしびれがあった場合は、八味地黄丸の類似処方である牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)を処方していたでしょう。また、むくみがあったり活気がない印象がある場合は、水代謝を改善して新陳代謝を高めるため、真武湯を追加して、八味地黄丸+真武湯または牛車腎気丸+真武湯を処方します。
なお、八味地黄丸を処方していて経過中に胃腸障害が出現したときは、八味地黄丸の構成生薬である地黄の副作用と考え、方剤を変更する必要があります。

【症例4 若い女性の冷え】
 患者さんは24歳女性です。肩こりと夕方の下肢のむくみを主訴に、○年1月に来院されました。そのほかに症状はありませんが、月経不順と排卵時の下腹部痛を自覚しています。食事、便通、睡眠や、家庭・職場での人間関係には問題ありません。自覚症状としての冷えは強くありませんでしたが、「冷え症ですか?」と質問したところ、「めっちゃ冷え症です」と元気に返事がありました。

 身体所見では、身長 162cm、体重 52kg。色白でぽっちゃりした印象があります。脈は弱く触れ、腹診ではお腹は軟らかい印象です(虚証)。手足は冷えがあります(寒証)。舌診では辺縁に歯型(歯痕と舌下静脈の怒張(お血)を認めました。

 体がやや浮腫状(水毒)で、軽度の末梢循環障害(お血)があり、冷えも存在するので、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん、ツムラTJ-23)を日量3パック(分3)で処方しました。肩こりは肩の筋肉の水分量が多くなること(水毒)で体温を低下させ、体温低下によって末梢循環障害が起こっていると思われます。昔から当芍美人といって、色白でぽっちゃり型の人には当帰芍薬散が効くことが多いといわれています。若い女性の冷え症には当帰芍薬散が第1選択薬です。

 臨床経過です。2週間後には何となく体が温かい感じがすると言っており、改善が認められたので、さらに4週間、継続治療しました。3回目の診察時にはむくみや肩こりもなくなり、月経痛も軽くなったと喜んでいました。現在、3カ月に1度のペースで来院しています。漢方があった方が体調が良いので手放せないようです。

 以上の4症例が典型的な冷え症患者さんのパターンで、8割程度の症例はカバーできます。

 最後に冷え症についてまとめます。

・四肢の冷えにはしもやけの薬である当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)を用いる。

・胃腸機能が低下した冷えには人参湯(にんじんとう)を用い、むくみの所見があれば真武湯(しんぶとう)を追加する。

・高齢者の足の冷えには、漢方のホルモン補充療法と呼ばれる八味地黄丸(はちみじおうがん)を用いる。

・若い女性のぽっちゃり型体系の冷え症には当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)を用いる。










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めまいと漢方

 めまいを主訴に総合診療科を訪れる患者さんは少なくありません。その多くは、耳鼻咽喉科などで、器質的な疾患の可能性を除外された上で治療を受けています。それでも十分な効果が得られなかったわけですから、総合診療科やかかりつけ医が再度、西洋医学的に対症療法を行っても意味がありません。このような場合に漢方が役立ちますので、試してみてください。

【症例1】
 患者さんは68歳のやや太った女性です。
現病歴:半年前からめまいがときどき起こるため、精密検査を希望し、当院耳鼻科を受診しました。耳鼻科では特に異常を認めず、脳外科に紹介しました。しかしそこでも異常を認めなかったため、総合診療科に紹介されました。立ち上がった時に引き込まれるような感じを数秒間自覚していますが、それ以外の時は、特にめまいを自覚していません。
身体所見:脈拍 66/min 整。血圧112/68 mmHg。低起立性低血圧は認めない。貧血、黄染なし。心肺腹部に異常なし。下腿浮腫なし。
尿・血液検査:異常所見なし。
頭部MRI:異常所見なし。

 西洋医学では、病気を解剖学的・病理学的に分類して診断し、治療法を決定します。“めまい”という症状の場合、内耳や脳神経に炎症、腫瘍などといった病理学的な異常がなければ、治療が始められません。この患者さんは、耳鼻科・脳神経外科で診察・検査し、めまいを来す臓器に病理学的な異常が見いだされなかったために西洋医学的な治療が行えず、総合診療科へ紹介されてきました。

 ここで、耳鼻科や脳神経外科と同様の西洋医学的思考プロセスで診断しようとしては、お手上げです。心療内科的なアプローチを行い、自律神経失調症として抗うつ薬や精神安定剤を処方する選択肢もありますが、この患者さんのように、ときどき症状が出現する場合、治療による食欲不振やふらつきなどの副作用の出現で、逆に患者さんの状態を悪くする心配があります。このような場合、漢方的に評価をして、漢方薬を使った方がよいと思われます。

 西洋医学では、主訴から考えられる疾患を2~3想定しながら、鑑別診断という形で診察・検査を進めていきます。これに対して漢方では、鑑別処方といって、主訴を治療するために処方される方剤を想定しながら診察を行います。「方剤」とは複数の生薬をあらかじめ調合したものを指します。

 漢方非専門医が漢方薬を処方する場合、煎じた生薬を乾燥し、粉剤や顆粒にしたエキス剤を用いるのが普通ですし、それほど多くの方剤を使いこなす必要もありません。1つの症状に対して2、3種類の方剤で十分です。処方を決める際には、細かい適応にこだわることなく、先生方が感じた患者さんのイメージと方剤の持つイメージから、相性の良い組み合わせを決めるという感覚で処方します。

 めまいによく用いられる方剤は、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)の3剤です。以下に方剤の持つイメージを列挙しますので、これを頭に置きながら漢方的な診察を行います。

補中益気湯:エネルギーの不足から立ち上がった時に血圧が下がり、ふらつくといった人(気虚)に用いる。
半夏白朮天麻湯:身体がむくんでいて、乗り物酔いのような症状の人(水毒)に用いる。
苓桂朮甘湯:イライラしていてのぼせて目が回るといった人(気逆)に用いる。

 これらの3方剤で、コモンディジーズとしてのめまいの大部分に対して対応可能です。これらの処方を試してみて効果がない場合は、漢方の専門家へ紹介しましょう。

患者のイメージをとらえ、それに合う漢方薬を選ぶ
 症例1の患者さんを漢方的に診断する場合、漢方的な病気の分類をしなければなりません。そのためには上記の診察では不十分ですので、漢方的な診察を追加します。カッコ内は漢方用語です。漢方の教科書を読む際に照らし合わせてください。

漢方的問診:冷え性で、あまり活動的な性格ではない(陰、虚)。
  乗り物に酔いやすく、疲れると体が重く、むくんでいるように感じる(水毒)。
  喉はあまり渇かないが、よく水分を摂取している(水毒)。
  水分を摂取している割に尿量は少ない(水毒)。
漢方的診察:体型は水太りの印象。
  舌は腫れている様で、辺縁に歯形がついている(歯痕舌、水毒)。
  手足は冷たい。腹部は皮下脂肪が多いが、押しても弾力性がない(虚)。
  軽く叩くとチャポチャポと水の音がする(振水音、水毒)。
漢方的診断:身体の虚弱な人が水代謝の機能低下により、胃腸などに余分な水分が溜まってむくんだ状態。おそらく内耳の内リンパもむくんでおり、そのためにめまいが生じる(虚証で水毒)
漢方治療:虚弱な人がむくんでめまいを起こしているので、余分な水分を排除することを目的として、半夏白朮天麻湯を処方します。
予後:2週間後の再診時にはめまいは軽快していました。

 漢方非専門医が扱う漢方症例は、コモンディジーズを対象としますので、病態にある種のパターンがあります。ですから難しく考えず、病態のパターンに対応する方剤を処方します。別のパターンのめまいの症例を簡単に紹介しますのでイメージを膨らませてみてください。

【症例2】
 患者さんは78歳の小柄な痩せた女性です。既往歴に胃潰瘍と胆石で手術歴があります。
現病歴:6年前から人と話をしている時に興奮して回転性のめまいが起こるようになりました。また、些細なことで夫と口論してはめまいを起こし、夜間一人でいると不安になって動悸やめまいが起こるため、たびたび救急車を呼ぶようになりました。脳神経外科、耳鼻科、心療内科を受診しましたが改善がみられないために当科を受診しました。診察時、たえまなくしゃべり続け、夫に文句を言うことがありました。
漢方的診察:腹部の診察では、大動脈の拍動が著明でした(臍上悸)。
漢方的診断:以上から、精神・神経の興奮性(気逆)と考え、苓桂朮甘湯を処方しました。
予後:2週間後の再診時には症状は軽快していました。

 このように漢方では、西洋医学と違ってイメージが大切です。生物学的な因子だけでなく、感情を伴って変化する複雑な人間に、多種類の生薬からなる方剤を処方するだけに、個別的、ボトムアップ的ではなく、総合的な対応でいきましょう。

漢方の基礎知識
 漢方における病気の分類は西洋医学とは異なり、病気だけの分類ではなく、患者さんの体質分類も含まれます。体質は次の2つに分類されます。
陽:丈夫で、胃腸が強く、活動的、代謝が活発。
陰:虚弱で胃腸が弱く、家にいることを好む、代謝は低下ぎみである。
 さらに、気温の変化やストレス、微生物の侵入といった、ホメオスタシスを乱す外界の変化に対する人体の対応については、
実:変化に対して過剰に反応する。
虚:変化に対してあまり反応しない。
に分けられます。

 漢方では、病気を解剖学的、あるいは病理学的に分類せず、身体全体をシステムとして捉えて、システムの異常という考え方で病気を分類します。ヒトの生命活動を支えるシステムには、自律神経・生命エネルギーシステム(気)、血液・栄養・内分泌システム(血)、水代謝・免疫システム(水)の3つがあります。これらのいずれかが歪むことにより、病気が起こります。しかも、この3つは互いに影響を及ぼし合っているので、複数のシステム異常が病気の原因となります。最近、西洋医学でも、「心腎相関」など、疾患に複数の臓器が関与しているという考え方が提唱されていますが、同じ発想といってよいでしょう。

病気の分類
 システム異常によって起きる病気には、以下のようなものがあります。

1.自律神経・生命エネルギーシステム(気)の異常
  気虚:エネルギーの不足:元気がない、やる気がない。
  気逆:自律神経の過敏:いらいらする、動悸がする、異常に発汗する。
  気うつ:自律神経の停滞:意欲がでない、落ち込む、胸が詰まる。
2.血液・栄養・内分泌システムの異常(血の異常)
  血虚:貧血、栄養不良、ホルモン低下:元気が無い、疲れやすい、集中力がない。
  お血:血液循環が悪い:肩が凝る、腰が痛む、足先が冷える。
3.免疫・水分代謝システムの異常(水の異常)
  水毒:水代謝異常:浮腫む、喉が渇く、関節が痛む。

 生命エネルギー(気)は、全身を上から下へ循環しています。気虚は、気が足りないこと、気逆は気が下から上に逆流すること、気うつは気の流れが停滞することです。

 日本は高温多湿の気候で、皮膚からの水分蒸発が困難です。食生活では米を炊飯し、喫茶の習慣がありますので、水分の摂取過多になる傾向があります。そのため水代謝異常を来たしやすいと考えられます。

 過労や暴飲暴食などの不摂生はシステムの機能を低下させますし、加齢(腎虚)はシステムの予備能力の低下をもたらします。これらの要因があると、内的、外的なストレスによるシステム異常、すなわち病気になりやすい状態になります。

 



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風邪の漢方処方

(1)風邪の初期(太陽病期):食欲、体力がある時期。
(2)風邪をこじらせた時期(少陽病期):食欲、体力が落ちている時期。
(3)風邪が酷くなった時期(陰病期):食欲はなく、寝込んでいる時期。

(1)の時期は、発汗がなければ葛根湯、発汗があれば桂枝湯を処方します。
(2)の時期は、小柴胡湯を処方します。

 実際には、(1)と(2)は明快に区別できるとは限りません。(1)の桂枝湯と(2)の小柴胡湯のどちらを処方すべきか迷うことがあります。昔の医師も迷ったのでしょう。桂枝湯と小柴胡湯を足して2で割った処方である柴胡桂枝湯があります。この4処方を風邪の患者さんによく処方します。


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耳の痛みが現われた気うつの症例

耳の痛みが現われた気うつの症例

 患者さんは神経質そうで痩せた35歳の女性。5歳の女の子と夫の3人で暮らしています。主訴は両側の耳の痛みです。家族歴・既往歴に特記すべきことはありません。現病歴ですが、3カ月前から徐々に両耳が詰まる感じが出現し、1カ月前から耳が痛くなりました。

 はじめは市販の痛み止めを飲んでいましたが、改善しないために近医の耳鼻科を受診。検査にて異常が認められず、痛み止めが処方されました。

 しかし、全く改善がみられないため、当院脳神経外科を受診。頭部MRI検査などにて異常を認めなかったため、当院精神科に紹介されました。エチゾラム(商品名:デパス)3錠が処方されましたが、体がだるくなるばかりで耳の症状が改善しないため、漢方治療目的に当科へ紹介されました。

 今回は、当初から漢方治療目的ですので、早速、漢方的な問診と診察を行いました。なお、身体診察・血液検査には異常ありませんでした。

漢方的な問診:家計を助ける目的で、1年前から近くのコンビニエンスストアでパートを始めました。店長に仕事ぶりを認められ、徐々に仕事量が増えていった5カ月前ころから耳鳴りが始まりました。このお店は四国でもトップクラスの売り上げがあり、やりがいがあったため、気にせずに仕事を続けました。
 冷蔵庫の在庫管理などを任されるようになり、かなり忙しくなった3カ月ほど前からは、耳が詰まる感じが出現しました。しかし、アルバイトの同僚が高校生なので、疲れていても仕事を任せることができず、責任感が強いこともあって気を抜くことができませんでした。
 1カ月前ころからは耳が痛くなってきました。痛みのために仕事がきつく感じるようになったので、店長に休みをもらおうと思いましたが、気兼ねして言い出せませんでした。同じころ、子どもが通っている保育園の夏祭りの準備が始まりました。世話役をしていた関係でそちらも忙しくなり、気を使うことが多くなったためか、症状はますますひどくなりました。

漢方的な診察:顔貌は抑うつ状(気うつ)。脈に元気がない(気虚)。お腹は季肋部の筋肉が緊張している(胸脇苦満)。
 ストレスがたまると季肋部の筋肉が緊張してきます。一種の腹壁反射だと思われますが、漢方では「胸脇苦満」といってストレスの有無の指標とします。このサインがある場合、「気うつ」の患者さんに対しては、半夏厚朴湯ではなく柴朴湯を用います。

漢方的診察:仕事を頑張りすぎ、気疲れから元気がなくなり(気虚)、それでも頑張っているうちに能率が落ち、仕事が自分の思うように行かなくなり自分を責め、やる気がなくなってきた(気うつ)。

漢方的治療:体と頭を休ませるために仕事を2週間休むように指示。柴朴湯(ツムラTJ-96)3パックを処方しました。

経過:漢方治療開始2週間後には、だいぶ調子が良く耳も痛くなくなったと表情が明るくなってきました。経済的な理由で仕事を再開しましたが、簡単な仕事に替えてもらいました。さらに2週間後には薬を飲みながら、冷蔵庫の在庫管理以外の仕事ができるようになり、症状もなくなりました。その1カ月後には、一段と調子が良くなり、病気をする以前の状態に近く、薬を飲み忘れるようになったとのことでした。店長さんが気を使ってくれて、以前ほど仕事を頼まれることがなくなり、神経を使う在庫管理はやらなくてもよくなっています。

考察:漢方的な解釈では、この患者さんは耳のあたりで気の流れが悪くなったため、耳の痛みと詰まった感じが出現したとみなします。気の流れは、頭のあたりで悪くなると頭重感や頭痛が、胸のあたりだと咳や喉の詰まり感が、お腹のあたりでは腹痛や腹部膨満感が出現すると考えられています。

 西洋医学的には、気の異常は自律神経の異常ととらえられます。交感神経と副交感神経の緊張のバランスは局所的なものとされていますから、頭部の自律神経のバランスが崩れると、頭痛などの自律神経失調症状が現われ、胸部だと息ができないなど呼吸器系の症状が、循環器系だと動悸・胸痛といった症状が出現します。

 今回の患者さんは、おそらく耳管の開閉を調節する自律神経のバランスが崩れたために耳痛、耳重感といった自律神経失調症状が出現したのだと思われます。


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汝自身を知れ おまえほど空しく貧しい存在はひとつもない

 デルフォイの神託で「汝自身を知れ」ということは良く知られているが、この続きが結構長い。
 「おまえの内をを見よ。おまえを知れ。おまえ自身を考えよ。外で費やされるおまえの精神と意志をおまえ自身にひきもどせ。おまえはおまえ自身から流れ去り、おまえ自身を放散させている。自己に集中し、自己を支えよ。おまえは裏切られ、撒き散らされ、盗まれている。おまえにはわからないのか。この世界の万物はすべて自分の目を自分に集中し、自分を見つめるために目をひらいていることを。おまえにとっては内も外も常に空だ。だが同じ空でも拡がりが少なければそれだけ空ではない。おお、人間よ、おまえ以外の万物は皆、第一に自己を研究する。そして自分の要求に応じて、仕事と欲望に限界を定める。世界をいただいているおまえほど空しく貧しい存在はひとつもない。おまえは知識をもたない詮索家であり、権限をもたない裁判官であり、とどのつまりは、道化芝居の道化役にすぎないのだ」
 「汝自身を知れ」というのは結構つらいものがある。そこには「悲惨と空虚だけ」しかなく、だから、「自然は、われわれを失望させないために、うまい具合にわれわれの見る働きを外にむけてくれた」とモンテーニュは書いている。


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メノケアモイストゼリー

メノケアモイストゼリー

●更年期の症状といえば、頭痛、肩こり、めまいなどのように思われがちですが、決してそれだけではなくじつにさまざまな症状があらわれます。皮膚や粘膜についての変化だけをみても、女性ホルモン(エストロゲン)の減少による症状として、みずみずしさが失われたりハリがなくなったりします。目や口にも乾燥の症状があらわれます。
●またさらに女性にとって大変つらい症状としては、膣やその周辺部の乾燥による“不快感や痛み”があげられます。病院などで相談することも控えてしまうことが多く、このことに悩んでいる女性は少なくありません。本来、潤いのある膣内は酸性に保たれ、雑菌等の進入を防ぎ膣炎等から身を守る働きもしています。
●メノケア モイストゼリーは、このような方々の悩みを解決するために開発されたプライベートゾーンのための専用保湿ゼリーです。日常的にケアすることで爽やかな生活をお約束します。
●人生80年時代、更年期、そしてそれ以降もQOLの向上とエイジレスライフのための一助となることを願っています。

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