桃

新橋の交差点で軽トラが止まっていて

桃が売れ残り、６つで３５０円！と叫んでいる

今年は桃なんか食べないだろうなと思い

通り過ぎたけれど桃もいいなと思い直して

軽トラのあんちゃんに近づき

一万円でもおつりありますかと聞くと

大丈夫ありますというので

じゃあ

というと

6つで３５０円はこっちの小さい奴、

大きい方は７つで１０００円、こっちの方がおいしいよというので

気迫で圧倒されて１０００円分７個を買う

次の人も同じ文句で勧誘されて

その人は気迫で押し返し

うちは二人しかいないから小さいのでいいよとかいっている

すると大きいのを３つで５００円でどうですかなどと言っている

７つも買って一人で多分７日かかるから

それまで持つかなとか思う

帰りに成城石井に寄ったら

桃が三つで５００円と出ていて

厳重にパックされていた

桃の値段はそんな感じなのかと

やっと知る

帰って食べてみると

見事に熟していて

おいしかったことはおいしかったが

世間知らずが身にしみる

*****

桜桃忌には

太宰の墓の文字のくぼみに

サクランボを詰め込む人もいたそうだ

パピパピ太宰も困ったもんだけど

時代はどんどん太宰じみてきている

太宰が生きていたら

今頃は派手な活躍をしていただろうと思う

田中康夫どころではない

実家の津島家は津軽の衆議院議員をずっとつとめているから

いまでいえば

石原家のようなものだろう

裕次郎が太宰にあたるけれど

太宰の場合は当然当選１５回くらいは確実にいって

軽い軽い総理大臣になり

総理大臣は自殺したくなるんだよなどと言っていたに違いないのだ

「解散しようと思っていた

夏物のゼニアをもらったから夏まで延ばした」

などと書くだろう

当時の情景としては、太宰が

女給に、ねえ、死のうよ、とふざけてまわり、

たいていの女たちは、よしよしと、養育本能を刺激されていたのだけれど、

この金持ちのボンボンが！とかっとなったその女は、

ならほんとに死のうよ、ね、ね、死にたいんだろう、とキレて

死ぬってこういうことなんだ！と

太宰を道連れにしてしまったとの説がある

玉川上水には手を引っ張られた太宰が入水を拒んで

足を突っ張ったあとがくっきりとあったらしい

力の強い女だった

タクシー後部座席ベルト

タクシーの後部座席に乗って

シートベルトを締めるでしょう

そのとき私は女性でしかも小柄だから

シートベルトが首にかかってしまうんです

困るので

なるべく中心部に寄って、

しかも左手でベルトを引っ張ったり

左手の下にベルトを入れたりしてもみるのですが

具合が悪い

もう少し調節できるといいのだけれど

ベルトが直接肌に触れてしまう瞬間もあり

つらい

首つりになる瞬間もあり

７月７日

７月７日に何か大事な思い出があったような気がするが

はっきり思い出せない

いかにも思い出がありそうな日であるが

わたしの場合にはなかったかもしれない

意外と地味な七夕の日

短冊に何を書いたかも思い出せない

夢のない子どもだった

いまなら何と書くだろう

人の美しい情熱を応援したい　とでも書くだろうか

美しいなどと書いた瞬間に思考の曖昧さを露呈しているようでもある

7月７日に 満月に なるみたい

今夜　月が　見えています　テレビでは　ウィンブルドン女子決勝

ことし2009年は　7月７日に　満月に　なるみたい

いいですね　お願いは何ですか？

Fry me to the moon

満月に皆さん　変調を来すようです

たぶん潮の具合と関係しているんでしょう

亀が卵を産んだりするんじゃないかな

旧暦の七夕はもちろん七日目であって、

14番目の月で有名なように　15日目が満月で

7日だと約半分

9月15日は旧暦で言えば中秋の名月

新暦は月と関係ないので

新暦9月15日も満月ではありません

長恨歌で

楊貴妃と玄宗皇帝が

七月七日に誓い合った有名な場面は

別れに臨みて慇懃に重ねて詞（ことば）を寄す

詞中誓（ちかい）有り 両心のみ知る

七 月七日長生殿

夜半人無く私語の時

天に在りては願はくは比翼の鳥と為り

地に在りては願はくは連理の枝と為らんと

天は長く地は久しくも時有りて尽く

此の恨みは綿綿として絶ゆる期（とき）無からん

*****

とのことで光源氏なんかも

ラブレターに使っている

宇宙が収縮して消滅するときも

ふたりの愛は変わらない

と

*****

自分のブログのどこかに

長恨歌があると思っていましたが見つからない

赦す・赦さない・神・世界

愛の神は赦す神といわれていて
そうであったらよかろうと思うが
多分そうではないだろうと思う

神は遥か彼方で微笑んで赦しているかもしれないが
その一方で
世界という記録メディアにはすべてが記録されている
唯一の記録
神もその記録を訂正することは出来ない

宇宙の場所と時間を指定すればすべては再生されるのだ
そのことが刑罰であると
私には思える

自らの恥辱を何度でも再演しなければならない
永遠の刑罰である

せめてもっと神がこの世界に関心を持ってくれたらいいと思う

*****
この宇宙はひとつの完璧な記録メディアである

赦せよと請うことなかれ赦すとはひまわりの花の枯れるさびしさ

赦せよと請うことなかれ赦すとはひまわりの花の枯れるさびしさ
松実啓子

相手を軽蔑していれば
赦すこともできる
それは不思議なことだ

相手を尊敬していないから
尊重プレイができるのだ
それはプレイなのだ

赦すことは宗教の背景があってはじめて実る行為である
宗教なしに赦すことは出来ないし
赦しているなら多分無関心ということで
突き詰めて考えていないということなのだろう

なおも赦せと
イエス・キリストが言うとき
それはかなりの高みでの発言である
生身の人間なら窒息しているだろう

星空の彼方に私たちの王国はあるだろう

七夕に二人逢うのは天の川を超えてのこと

玄宗皇帝と楊貴妃が二人出会うのも星空の彼方でのこと

星空の彼方に神がいるとの証拠はないが

星空のこちら側にいる雰囲気は全くない

ウィンブルドン男子決勝

すごかったな試合は

で、ボール・ガールというのかな

その人がね

キーラ・ナイトレイとか

ナスターシャ・キンスキーとか

そんな感じ

浴衣の君はすすきのかんざし

そろそろ夏も近い頃

浴衣を作ってあげるというので

寸法を測ってもらったことがある

首筋のあたりからかかとの近くまで測ったりしていた

それを着て

ホタルを見たり

バーベキューをしたりする予定だった

蚊に刺されたらいやだなとか考えていた

でもどれも実現しなかった

そのあと思いのほか長く生きた

山手線で浴衣の人を見て

そんな遠い昔を思い出していた

一瞬東京タワーが見えている

あのとき

わたしはじゃんけんで負けたんだ

そのわたしがいま

山手線に乗って浴衣の人を見ている

じゃんけんをすれば誰かが負けるのだから

負ける時があるのは仕方がない

じゃんけんをしてしまったのが

愚かだったのか

ホタルになって

はかなく飛ぶのもまた良いことといまは思う

わたしは

もっともはかなく飛んでみる

*****

それは倒錯した思いである

じゃんけんをしないように

したら必ず勝つように

仕組む方法が世の中にはあるのだと

知らずに生きていた

いまわたしは思うのだが

そんな仕組みをやはり拒む

わたしらしくない

はかなく飛ぶことがわたしの人生だ